【6月25日 AFP】「わたしの目をじっと見てください。何も考えず、体はリラックスしています」──激しいショックを受けた犠牲者を助けるために催眠術の言葉を使って落ち着かせようとしているのは消防士だ。フランス東部アルザス(Alsace)地方の消防隊が新たに見出したテクニックだ。

 アルザス地域圏のコミューン、アグノー(Haguenau)の消防署では、消防士120人が医療催眠の基礎訓練を受けている。がれきの下に捕らわれた人や交通事故で車に閉じ込められた人、さらにはぜんそくの発作を起こした人などを落ち着かせるために用い、救急時における従来の救援活動を補完できるという考えだ。現場に急行した救急隊員が手当てや救出を行う間、催眠法の訓練を受けた要員が犠牲者と個人レベルでのつながりを確保し、事故現場での心的外傷(トラウマ)から犠牲者の意識をそらす。

 通常、消防士たちは落ち着いた声で話し掛け、否定的な言葉を使わないよう注意している。犠牲者の意識を痛みに向けさせないよう、無事である部分を強調する。

 アグノー署長のダビド・エアネンバイン(David Ernenwein)氏は、催眠法が役に立つことは「間違いない」という。「(犠牲者の)手を握るとよりうまく行くことは、それを『催眠術』と呼んではいなくても、元々われわれ消防士が全員知っていたことだ。人を救助する際に最初に行うことは落ち着かせること。催眠法によってその技術がもたらされ、犠牲者の苦しみを和らげるのに役立つ」

 同署消防隊の主任医師イブ・ドゥアマン(Yves Durrmann)氏は、救急現場で催眠法を使用しているのは当面アルザス地方だけだが、フランス全土で活用すべきだという。しかしその前に、この手法の有効性が証明されなければならない。

■催眠法受けた全員が「手当ての時間短く感じた」

 今後少なくとも6か月間、アグノー消防隊では救助した犠牲者の心拍数や痛みの程度、感情面などについて記録し、その結果を催眠法を使用していない消防隊が対応した犠牲者の統計と比較するという。

 同じくアグノー消防隊の看護師セシル・コラヌエン(Cecile Colas-Nguyen)氏は「わたしたちの最初の見込みは当たっていたようです。100%の事例で犠牲者は、時間の経ち方が普段と違ったと答えました。言い換えれば、救急隊の手当てを受けていた時間が、実際よりも短く感じられたようです」

 仏内務省の高官らは慎重ながらも、アルザス地方の試みを歓迎している。自ら医療訓練を受けた消防士で、救急救援当局の顧問を務めるステファン・ドナデュー(Stephane Donnadieu)氏は「催眠法は決して気休めではなく、実際に効果があることは知られている。ただ適切な訓練を受けた要員が必要だ。救急隊員が受けているのは短期間の訓練だけで、この部分が課題だ」と述べている。

 同氏は、アグノーの消防隊が使っているのは催眠術そのものではなく「一種の催眠的技術」だが、「それが落ち着きや共感、より良い援助をもたらすことができているなら、悪いことではない」といい、騒音や被害がひどい現場でこの手法をうまく活用できるかどうかが正念場だと述べた。(c)AFP/Arnaud BOUVIER