【北京 9日 AFP】「ディズニーランドは遠すぎる」をキャッチフレーズにする北京石景山游楽園(Shijingshan Amusement Park)は、「シンデレラの城」や「マジック・キングダム」、白雪姫と7人の小人たちなど、ディズニーランド(Disneyland)そっくりのイメージがあふれるアミューズメント・パークだ。

 しかし、同園ではディズニーランドからキャラクターなどの使用許可は一切、受けていない。中国であからさまに「蔓延」している著作権侵害の例として、米国政府は憤りをあらわにしている。

 米政府は4月23日、中国を知的財産権の侵害問題で世界貿易機関(WTO)に提訴した。米企業らは中国の「海賊行為」によって年間数十億ドルの損害を被っていると主張する。

 しかし、子ども連れで北京のアミューズメント・パークを訪れていた31歳の女性は首をかしげる。
「どうしてそんなに大問題になるのか分からない。(ディズニー以外に)他のところも、こうしたキャラクターを使えるべきなのではないかしら」著作権問題に対する中国の人々の典型的な反応だ。

 中国では社会的にも法的にも著作権保護に対する態度が「寛容」で、模倣品製造は経済の主要産業とまでなっている。米議会の諮問委員会は、中国政府自身の調査データを引用し、中国の生産品のうち全体の15~20%がこうした模倣製品だと指摘する。

 北京では、模倣品批判をしようとすればきりがなく、朝から晩までコピーづくめで過ごすことなど簡単だ。ディズニーランドに似せた遊園地で午前中を過ごし、昼食にはケンタッキーフライドチキン(KFC)の類似品、午後には海外ファッション・ブランドのコピーをショッピング、夜はいまだ米国では映画館で上映中のハリウッド・ムービーを海賊版DVDで鑑賞できる…。

「中国で生活することの一部ですよ」と、北京の雅秀服装市場(Yashow Clothing Market)でアルマーニ(Armani)のコピーの上着を品定めしていたカナダ人ビジネスマンのブライアン・ダグウッド(Brian Dugood)さんは言う。雅秀服装市場は北京に数多くあるビルまるごとの市場で、ぎっしり詰まった店舗には堂々と偽物ブランドが並び、地元の中国人のみならず海外から多くの観光客も訪れる。
「10分の1の値段でほとんど変わらない品物を買えるのに、本物を買う必要なんてないでしょう」

 数件隣の店舗でスポーツ・ブランド、プーマ(Puma)のコピーをロシア人に売っていた女性店員に、「いつか市場は閉鎖されると心配しないか」と尋ねると、強く手を振って「ありえない」と否定した。彼女自身、偽紙幣を渡されていないかどうか確認しながら、「(著作権に関する議論など)そういう話は何度も聞いているし、何らかの圧力はかかると思うけれど、私たちの仕入れ先も抜け道を知っている」と答えた。

 米国の提訴は、中国に対する貿易制裁につながる可能性もある。しかし、中国知的産権研究会の張志峰(Zhang Zhifeng)氏は、中国政府にとって、著作権的に合法なDVDやデザイナー・ブランドを入手できる経済力がほとんどない消費者を変化させるという「使命」を課されるよりも、貿易における制裁の方が楽だろう、と述べる。
「中国には著作権というものに対する認識がない。海賊版を使用することを悪いと人々は思っていない」

 さらに、安定を指向する中国政府には、国内の「主要産業」を強制的に取り締まる動機はほとんどないだろう、と言う。
「政府が著作権保護を強化しても、中国にとって得になることはなく、海外の著作権保持者が得をするだけだ。政府が著作権保護に乗り出せば、中国自身の模造品製造業が発展し、競争力をつけることはできない」
 いずれにせよ、「米国のWTO提訴が2国間関係に大きな影響をもたらすことは必至だ」。

 海賊版DVDを販売する小店舗を経営するLei Danniさんも、米国企業らが自分たちの「合法的に製造したソフトウェア販売」が、海賊版によって損害を被っているという非難を気にしない。
「私たちは誰かから盗んでいるわけではない。顧客のほとんどは、”本物”は高すぎるから買えないと言う。だから、彼らと私たちのビジネスには何の関係もないんだ」(c)AFP