■「無名女優が有名な映画監督を訴えるのは無理」

 しかし韓国では、女性が告発を行った場合、インターネット上で陰湿ないじめを受けたりしつこく詮索されたりするケースが多いため、被害者は今後、とりわけ困難な状況に直面することになると活動家らは指摘している。

 この女優が今回、告発を行うまでには4年がかかった。

 キム氏は、自身の作品でほぼ無名の女優をキャスティングすることで知られ、女性が『メビウス』で演じたのは一家の母親という主要な役どころだったため、女性は「一生に一度のチャンス」だと感じたという。ところがそれは「悪夢」へと変わった。

「ある日キム氏は、『君の感情を目覚めさせてやる』と言い、突然みんなの前で、私の顔を思い切り3度平手打ちしました。その後、カメラが私の方を向き、撮影が始まったんです」「とてもショックでした…。でも、すぐに演技を始めなければならなくて」と女性は語り、「彼にやめろと言ってくれた」スタッフは一人もいなかったと明かした。

 女性は最終的に、2013年にベネチア国際映画祭(Venice International Film Festival)で上映された同作品から排除され、20年にわたる女優としてのキャリアを棒に振った。

 代役を務めたイ・ウヌ(Lee Eun-Woo)さんは、同作品で複数の女優賞にノミネートされ、以降は多くの映画やテレビドラマに出演している。

 当初この役柄を演じていた女性は、数年にわたって弁護士や業界関係者らに助けを求めたが、「そのことはもう忘れて前へ進みなさい」と言われるばかりだったという。

「皆に、私のような無名女優が世界的に有名な映画監督を相手に訴訟を起こせるチャンスはないと言われました」と、涙ながらに語った。