ベトナム反中デモで危機に陥った米アジア戦略、分析
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【5月16日 AFP】南シナ海(South China Sea)で中国が進める石油掘削をめぐってベトナムで反中国抗議デモが激化し死者を出す事態となったことで、対中国をにらんで東南アジア諸国との関係を重視してきた米国のアジア戦略がリスクに直面している。
ベトナムでは、中国が南シナ海に石油掘削装置を設置したことに抗議するデモが全国の3分の1の省に拡大し、ベトナム人労働者が中国人労働者や中国系の工場を襲撃して死者が出ている。
バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は、東南アジアとの関係構築に力を入れてきた。東南アジア経済の活力に期待するとともに、中国の台頭に対抗したい各国が対米関係強化に意欲的との判断からだ。かつての敵国ベトナムと新しい軍事協定を結んだのは、この方針を示す典型例だ。
それが今「米国に大きなジレンマをもたらしている」と、米独立系シンクタンク「新米国安全保障センター(Center for a New American Security、CNAS)」のアジア地域専門家、パトリック・クローニン(Patrick Cronin)氏は指摘する。
「米国がベトナムと政府間の戦略的対話を行うだけでは不十分だ。両国間に協定に基づくルールがあり、ベトナムが犠牲になることはないということを、ベトナム国民に保証する必要がある」
■ベトナム暴動はアジア経済にもリスク
米保守系シンクタンク「ヘリテージ財団(Heritage Foundation)」のディーン・チェン(Dean Cheng)上級研究フェローは、中国が暴動につけ込んで自らが被害者だと主張する危険性を警告する。既に中国政府は、ベトナム政府が暴徒を「黙認」したと非難している。
「こうした事態は間違いなく、米国の思惑をややこしくする。米国は無垢(むく)で善良な市民を支援したいのに、外国の直接投資(工場)を攻撃する行為がそれに泥を塗っている」
チェン氏は、暴徒が台湾企業まで攻撃したことで投資先としてのベトナムの魅力が大幅に低下する可能性に言及。外国の投資家がアジア全域を高リスクと判断すれば、アジア経済全体が最終的な敗者になる恐れもあると警告した。