【10月4日 東方新報】中国では古くから、木の根に彫刻をする「根彫」という造形芸術がある。独特に曲がりくねった木の根からデザインを想像し、杖(つえ)や筆入れ、パイプなどの小物から仏や人、動物の像まで多種多様な作品を作り上げる。根の天然の美しさを生かして創造力で作品を生み出す、自然の美と人間の知から生まれる芸術だ。

 隋・唐の時代には庶民の間だけでなく貴族にも人気が広がり、明・清の時代は技術がさらに成熟していった。20世紀に入り一時は衰退したが、1970年代以降は再び発展を遂げている。

 中国西部の福建省(Fujian)建瓯市(Jianou)は「中国根彫の都」といわれている。根彫を地元の主要産業として位置づけ、関係規則の整備や職人の育成に力を入れている。根彫関連企業・工房は3360人に上り、就業者は1万8000人、年間生産額は32億元(約654億円)に達する。

 根彫の職人は建瓯市以外でも活躍している。山東省(Shandong)菏沢市(Heze)の唐永懐(Tang Yonghuai)さんは「枯れ木に春を咲かせる」職人だ。地元の有名な牡丹(ボタン)をモチーフに花が咲き誇る作品を生み出しており、富や幸運をもたらす意味を込めている。「どの部分を捨て、どこを使うか。作業に入る前に、それぞれの木の根に適した作品を考えることが最も重要です」と唐さん。「インスピレーションがわくと、彫り終えるまで食事も睡眠も進まない」といい、10時間以上掘り続けることもあるという。62歳の唐さんは地元の無形文化遺産「青州根堀」の継承者に指定されており、「根彫は単なる技法でなく、中国独特の文化、精神を象徴している。後世に伝えていきたい」と話している。

 中国西部の新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)アラル市(Aral)に住む52歳の戴新(Dai Xin)さんは、独学で根彫を始めた。20歳のころ果樹園を営み、剪定(せんてい)した枝を燃やす際に「彫刻して作品にできないか」と思いついた。弥勒像や観音像、テーブル、いす、ペン立てなど大小の作品を手がけている。

 造形作品にするには、ふさわしい木の根が必要。1日ドライブして探すこともあるが、知人宅で集められた根や枝の中に意外な掘り出し物が多いという。友人宅で根を200元(約4987円)で購入し、彫刻を施して1万5000元(約30万6594円)で売れたこともある。

「ごみが宝になる。自然が芸術になる。それが根彫の魅力です」と戴さん。いずれ根彫の美術館を建設したいという。(c)東方新報/AFPBB News