【9月3日 MODE PRESS】ワインをちょっと学んでゆくと、必ず出会うことば“マリアージュ”。これは、フランス語で“結婚”を意味する“ワインと料理の素敵なマッチング”のことを指します。ご存じの通り、ワインも料理も、外観はもちろん、香りや味わいに様々な特徴があります。艶やか、香ばしい、スパイシー、スモーキー、フルーティー、爽快、なめらか……などなど、それらを特徴づける要素は実に多彩。そして、双方の個性を上手にひきだし合うことで、美味しさは倍どころか数十倍にも広がり、格段に味わい深くなるのです。

 それぞれの個性がピタっと寄り添った時の魅惑的な味わい――それは、ある種の依存性を孕んでいて、ひとたび体験すると後戻りはできません。そして、更なるマリアージュの深みを求め、人はワインと料理の奥深い関係性へのめり込んでゆくことになります。彼らは概して、“健啖家”とか“美食家”、あるいは“グルマン”、なんて呼ばれるようになるのですが(※)。※食する量によっては、“食いしん坊”、“大食漢”、などと称されるケースもあります。

 それでは、早速このマリアージュとやらを実践してみましょう! といっても、どんなワインと料理からはじめてみれば良いのか、見当がつかないかもしれません。でも、大丈夫。実は、世の中では“マリアージュの法則”が幾つもあって、それに則ってしまえば滅多に失敗することはありません。

 例えば、「生牡蠣にシャブリ(清涼感あふれるブルゴーニュ北部の白ワイン)」、「仔羊にポイヤック(ボルドーの銘醸地)のリッチな赤ワイン」、「ブイヤベースにカシス(南仏プロヴァンスを代表する白ワイン)」といった組み合わせ。これらはいわゆる王道マリアージュで、ワインと料理から感じられる特徴の共通項やヴォリューム感、あるいは産地を合わせるというお決まりのワザです。では、牡蠣にシャブリ以外のワインは合わないのか? と言えば、そんなことはありません。赤ワインでも、牡蠣のフレッシュさを際立たせるような、酸やミネラルのニュアンスを感じ取れるタイプがありますし、食材のミルキーさをひきたてるような、たっぷりとした南仏の白ワインだってマッチすることもあります。

 先日、青山の『プリズマ(PRISMA)』というイタリアンに足を運びました。ここでの忘れられない一品が「穴子のアグロドルチェ」です。繊細な穴子に酸味の効いた野菜を合わせた軽やかな一皿――ここに挑んだのが、フランス北西部はロワール地方の白ワイン、「サヴニエール レ ヴュー クロ」でした。造り手の名はニコラ・ジョリィ(Nicolas Joly)。彼はビオディナミ(Bio Dynamiques)の伝道師として知られており、農薬や化学肥料を排除したり、動物の堆肥を使ったり、カルト的と揶揄されるほどに有機的アプローチを追求しています。よって、ワインのスタイルもマニアック。ロワールらしい酸やミネラルや燻製香に加え、トロピカルフルーツ、ナッツ、スパイス、そして大地を感じさせる土のニュアンス……と、様々な香りがエネルギッシュに開いてきて、とにかく力強いのです。

 正直なところ、「このヴォリューム感に上品なアナゴは太刀打ちできないのでは」というのが、ワインを単体で味わったときのイメージでした。ところが、マリアージュさせてみると、口中で不思議な化学変化が起きたのです。アナゴの脂分がふくよかな旨みと共に口にひろがり、素材に秘められた野性味と複雑味がぐんと湧きあがってきて、ワインと見事な調和を成したのでした。よくよく考えてみると、ワインも穴子も、エレガントさと野性味の両者を持ちあわせていて、それらが絶妙なバランスで呼応したのでしょう。挑戦してみて、またひとつ新たな発見がありました。

 マリアージュは自由な発想で楽しむもの。そこには決まりもご法度もありません。現に、定番「マリアージュの法則」にとらわれすぎると、たのしみの幅が半減しまうことだってあるのです。互いに全く違った特徴が突出していれば、ケンカしてしまう危険性は高まるかもしれません。でも、そんなことを恐れていたら、ワクワクするようなカップルは生まれないと思いませんか?ワインだって、人間だって。

 ですので、この講座では固定概念にとらわれない奔放なマリアージュの楽しみ方をお伝えできれば思います。せっかくですから、旬食材を取り上げて季節感も織りまぜながら、その可能性を模索してみましょう。世界に存在する料理の数とワインの数を思い浮かべれば、その組み合わせは無限大。さぁ、敏腕“お見合いおばさん”になった気分で、いま最もホットなカップルを見つけてみませんか。【瀬川あずさ】

プロフィール:
聖心女子大学卒業後、施工会社の秘書を務め、飲食店の企画、設計、施工業務に携わりながら、レストラン巡りに没頭する。その後趣味が高じて、フードアナリストならびにワインエキスパート資格を取得。現在は、記者・ライター業、ワインスクール講師、飲食店メニュー開発などを務め、食を通じた豊かなライフスタイルを提案するべく活動中。
(c)MODE PRESS

<インフォメーション>
瀬川あずさ オフィシャルブログ