【10月11日 MODE PRESS】10月9日から14日まで有楽町の国際フォーラムにて開催されるIMFの国際会議場にて、工芸ルネッサンス「WAO」の展示を任された。WAOのくくりで、ピンクの南部鉄瓶、会津塗りのiphoneカバー、金沢のお針箱、赤木明登さんの大振りの輪島塗片口、串野真也さんのオブジェ靴などなどを展示した横には、人間そっくりのロボット「サイバーネット」、さらには初音ミク、電動車椅子、野菜を作るマシンなどが並べられ、日本の最先端のテクノロジー、ポップカルチャーと、伝統文化とを並列に紹介するというプレゼンテーションがなされている。187の加盟国から2万人ほどの経済重要関係者が来日するという場で紹介されるこれらの展示品は、一見ばらばらなジャンルに見えるが、じつは共通点が見られる。いずれも、細部にわたる開発、創造が行き渡っている、という点、つまりディテールの美、機能、心配りの集積で成り立っている点で繋がり、一つの世界つまり「日本的なる世界」を構成している。

■パリ、NYでも”ディテールの美”と“意外性”に注目

 後継者不足、販路の不足、産業規模の縮小などで苦しむ伝統工芸の世界に触れ、その未来への可能性を広げるためのプロジェクトとして2011年に立ちあげた工芸ルネッサンス「WAO」だが、すでに今年2月、3月と、153社の進化形工芸品を携えて、パリ、NYでプレゼンテーションを行ったばかりだ。じつは、出かける前は、少し不安があったのは事実だ。つまり、我々日本人が見て、素敵だと思われるこれら進化形の工芸品だが、海外では、もっと古典的なもののほうが受けるのでは?とか、その良さが伝わらないのでは?という気持ちがよぎった。

 一方で、密かな自信もあった。なぜなら、昨年末に来日したUSヴォーグ(Vogue)の編集長アナ・ウィンター(Anna Wintour)さんを、東北の工芸品を紹介する展示に案内した折のことだが、彼女がことのほか、漆のiphoneカバーや、カラフル南部鉄瓶、漆のバッグなどに目を止め、興味を抱いて下さった様子を、しっかりキャッチした経験があるからだ。目利きの彼女が注目するものーーそれは、すなはち、海外のマーケットでもポジティブな反応が期待されるものだと言えるはずだからだ。

 その予測通り、海外の展示会では、予想を超えるポジティブな反響をいただいた。アンケートに応えてくれた90%以上の人が、また見たい、今度は買ってみたいと答えて下さったのだ。富裕層のゲストの反応も大きく、ごっそりまとめ買いをする人もいた。「デザインは極めてモダンで、ある種無国籍とも言えるが、ディテールの造りがとにかく美しい。これは日本ならではだね」と、あるゲストがあたたかいコメントを寄せてくれた。この言葉は、私たちにとって、心強い褒め言葉となった。

■COOL JAPANの本質

 このディテールの美の究極の形を示すのが、伊勢型紙の存在だ。江戸時代に人気を博した江戸小紋の染色用の型紙として知られる伊勢型紙だが、近年、美術館のキュレーターたちの研究によって、これら型紙が、西洋の美術、デザインに大きな影響を与えたということが解明され、そのことを証明する展覧会「世界が恋した日本のデザイン」がいま開催されている。アールヌーボーもリバティプリントも、すべて、日本の型紙に大いに影響を受けていたという事実は、日本の文化史において大きな発見だった。すでに、東京の三菱一号館美術館、京都国立近代美術館を経て、現在は三重県立美術館で開催中。(10月14日まで)和紙を3〜4枚、柿渋で重ね合わせた上に、型を描き、彫りぬく。その繊細な模様を描きだすための職人さんたちの作業はまさに、ディテールを描き出すことの集積だ。美術館で行われた職人さんたちのパフォーマンスを見たが、まさに、静寂の中に、彫る音だけが響き続けるーー瞑想的な作業風景だった。細かい、精緻な作業は、まさに日本のディテールの美を象徴する世界。その密やかな、細部に宿る美しさこそが、日本の文化の強みであり、ものづくりの本質なのだと思う。

■意外性の象徴は“ピンクの南部鉄瓶”

 伝統工芸の世界で、いまもっとも注目される「未来型のアイテム」は、カラフルな南部鉄瓶のシリーズだ。火付けとなったのは、Enchan-Thé(アンシャンテ)というフランスの紅茶の輸入、販売を手掛ける会社で、従来の真っ黒な鉄瓶のイメージを一新するかわいらしさ、おしゃれ感が、国内外で話題となっている。内側を樹脂加工することで、ティーポットとして海外の人々でも使いやすくした点が画期的だ。直接火にかけられない、さびも出ないーーというこの21世紀型の進化形鉄瓶は、ものごとを革新させる折には、何かを捨てることも大切、と教えてくれる。

■販路の拡大を考える

 この原稿を書いている間にも、IMFの会場から連絡が入り、WAOの展示が人気を集め、皆が「どこで買えるのか?」と問い合わせが尽きないという。ロボットや初音ミクと並んでも遜色のない、進化形の伝統工芸品たち。そのことの事実は、伝統工芸がディテールの美を宿したクオリティをキープしながら、デザインやファッションと繋がることにより、世界の人々を魅了するだろうという可能性を感じさせる。伝統工芸の販路は、他の産業ともども、確実に世界に向けて拡大されねばならないと確信している。【生駒芳子】

プロフィール:
ファッション・ジャーナリスト/アート・プロデューサー。東京外国語大学フランス語科卒業。 フォトジャーナリストとして旅行雑誌の取材、編集を経験。 その後、フリーランスとして、雑誌や新聞でファッション、アートについて執筆/編集。1998年よりヴォーグ・ニッポン、2002年よりエルジャポンで副編集長として活動の後、2004年よりマリ・クレール日本版・編集長に就任。2008年11月独立。ファッション、アート、ライフスタイルを核として、クール・ジャパン、社会貢献、エコロジー、女性の生き方まで、幅広く講演会出演、プロジェクト立ち上げ、雑誌や新聞への執筆に関わる。工芸ルネッサンスWAO総合プロデューサー、クール・ジャパン審議会委員、公益財団法人三宅一生デザイン文化財団理事、NPO「サービスグラント」理事、JFW(東京ファッションウィーク)コミッティ委員など。エスモード・ジャポン講師、杉野服飾大学大学院講師を務める。
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