【10月9日 MODE PRESS】「可愛い」は、幼いものや小さいものに対する情愛や愛着などを表現する意味合いとして使われ、本来は目上の高齢者や成人男性を「可愛い」と表現するのは失礼とされてきた。

■可愛いとは何者か。

 しかし現在では、子犬や子猫はもちろん、ケーキや洋服だけでなく、年上の女性や年下の少年にも「可愛い」は褒め言葉として通用するということである。また物に限らず、「ルミネ」の広告ならば、キャッチコピーの“言葉”ですら「可愛い」と言えるかもしれない。※参照リンク(1)

 「何にでも可愛いと発言する人は自分を一番可愛いと思っている」そんな、日本人女性を全員敵にまわすような発言をした男友達がいたけれど、そういった心理学的な話では全くないため、その名言(?)は聞かなかったことにした。しかし、彼の発言から一つだけわかる事があった。

 男性には、とうてい理解できない言葉なのだろう。

 「可愛い」の定義は、他の言葉に置き換えられない程複雑な表現を表している。例えば英語に訳すとき、「CUTE」とも違えば「SWEET」とも違うが、私たち日本人からすると、英語圏にだって「可愛い物」がたくさんある。ポップな色使いの雑貨や、見た事もない色合いのカラフルなワンピース。憧れのブランドのコレクションラインなどなど・・・

でもそれを英語圏の女性は「KAWAII」とは例えないことは確かである。

■「KAWAII」と「TOKYO KAWAII」

 ただでさえ説明し辛い「カワイイ」がローマ字になり、おまけに日本の大都市までくっついている「TOKYO KAWAII」。しかしローマ字になった「KAWAII」の説明は簡単だ。
漫画やアニメのキャラクターなどの日本文化に対して使われる言葉であると一般的に解釈され、先日パリで行われたジャパンエキスポにもAKB48などが出演し、日本でいう秋葉原の文化を指す言葉なのである。

■リアル「TOKYO KAWAII」との出会い

 少し話は逸れるが、大学時代、ロシアにある繊維大学で行われた「学生ファッションコンテスト」に自分の作品を出展した事があった。短期研修という形で私以外は全員男、5名の生徒と引率の先生2名でロシアへ渡った。そのときの私の作品は、「究極のガーリー」。それも『東京らしいリアルクローズ』をテーマに制作したピンク色のバッグだった。

 このピンク色のバッグには、忘れられないエピソードがある。もともとは、「学生ファッションコンテスト」の為に制作したのではなく、大学3年時の「学内コンクール」という、学生同士が作品を学内で出展し、全教授から評価をもらう、という課題のために作成したものだった。結果から言ってしまえば、私の作品の評価は散々たるものだった。

 「ピンク色が幼稚であり、見ていられない」
 私のプレゼン中、そう言って席を立とうとしたのはファッション文化論の教授だった。今でこそ思い出話だが、深く傷ついたことだけは覚えている。納得がいかなかった私は反論の論文を作成した。

 しかし提出するのは止めた。
 ファッション「文化」論のスペシャリストには理解できない、今の日本・東京の空気、そして“リアルTOKYO KAWAII”が私の中にはあるのだということをプラスに捉えることで自分自身納得したからだ。ありがたいことに専攻していたコースの教授が高く評価してくださったこともあり、見事ロシア行きの切符を手にすることができた。

■ロシアでまさかの「TOKYO KAWAII」

 言葉の通じないロシアは、心細さからのスタートだった。到着の翌日からコンテストのリハーサルが始まり、そのとき日本人は私ただ一人。舞台裏でステージのランウェイに出るタイミングもわからなければ、何か言われても言葉すら理解できない。そんなとき、その不安をかき消すような言葉が後ろから聞こえてきた。

 “TOKYO KAWAII” —
 反射的に振り向くと私のピンク色のバッグを指差してニコニコ笑っていた。それから他の女学生がどんどんと集まって、私は「TOKYO KAWAIIの人」になった。

 この研修を通して出会ったロシア人の半分は、英語を話せなかった。世界中で多くの人が「英語」を話す時代に、その英語さえも通じない土地で、文化交流のきっかけになったのが「TOKYO KAWAII」という言葉だとは、私自身思いがけなかった。

 なぜ、私の作品を「TOKYO KAWAII」と言ったのか聞けば、「TOKYO STYLEでしょ?」という答えが返ってきた。ロシア人女学生曰く、ピンク色はちょっと幼稚でセクシーさには掛けるけど、細かいディテールがTOKYOらしいという。

 現に、ロシア人学生のコンテストの出展作品を見てもそれは明らかだった。大胆にスリットの入った大柄のドレスや、プラスチックをつなぎ合わせて仕立てたドレスや、大きなモチーフのついたスカートなど、舞台映えはピカイチ。それに比べて、日本人学生の作品は、遠くからみると黒い無地に見えるような地味なカクテルドレスに、おなじ日本人の私でさえもギョっとしてしまうような繊細な刺繍が連なっていた。生地を1から編んで作り上げた学生の作品もあった。こういった感性が彼女たちの言う「ディテール」なのだろうか。

 とはいえ、このコミュニティだけ特別に日本に関する知識があるのかと思い、TOKYOの名所?のひとつである「109」や「ラフォーレ」を知っているかと試しに聞いたところ、全員が知らないと答えた。ちなみに渋谷や原宿という場所も知らないそう。

■これからの「TOKYO KAWAII」

 「TOKYO KAWAII」は、「21世紀世界で最も知られるようになった日本語」とする意見もあるようだが、まさに私自身がそれを体験できたのは貴重だったかもしれない。前述で例にあげた国とはまた別に、「アジア」という地域にも広がりをみせている。シンガポールの有名ブロガー「シャーシュエ」や香港ブロガーの「チージー」もこぞってTOKYO LOVERを公言している。チージーちゃんに至っては日本語もペラペラで、先日RUNWAY CHANNELで日本語のブログもスタートさせた。

 このように、母国の言葉が浸透して行くのはとても嬉しい事だが、「TOKYO KAWAII」という言葉だけがカルチャーとして一人歩きして行くのではないかと少々不安も感じる。

 次回は、日本女性独特のファッション感覚について探っていきます。【大田明弥】

-プロフィール-

モデル兼デザイナー兼ブロガー。1987年生まれ。杉野服飾大学卒業と 同時期に「リメイクができるモデル」として注目され、ブログへのアクセス数が急増。1日最高84万アクセスを記録したのち、リメイクブロガーとして「東洋 経済」やNHK「東京カワイイTV」などへ出演。現在は、企業や多数のアパレルブランドとコラボシリーズを発表するなど、デザイナーとして活動中。 (c)MODE PRESS

【関連情報】
※参照リンク(1)ルミネ広告 まとめ<外部サイト>
大田明弥の平成ガーリー論:第1回 ヴィヴィッドカラーの教科書
<TOKYO CLOSET>大田明弥のデイリースタイル 特集ページ

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