<MODE PRESS特別講義>おしゃれものづくり革命論vol.1 「ファッションと伝統工芸が出会うとき」
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【9月13日 MODE PRESS】パリ、ミラノのコレクション取材を続けてきて、2000年頃からだろうか、「ファッションはこのままで行くはずがない」という予感に包まれた瞬間があった。そのときから、私のコレクションの観察ポイントがシフトした。トレンドを追うだけでなく、地球環境や社会環境の変化がどのようにファッションに影響を及ぼすか、より興味深く観察を初めてみたのだ。
-エシカルとクラフツマンシップ
急激な変化は、パリ、ミラノでは早急には見つからなかった。唯一、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)が、植物に覆われたステージでショウを行ったり、待ち合いのティータイムにハーブティーやオーガニッククッキーでもてなすなどエコの要素を取り入れ、「さすが、ステラは早い!」と皆を早々とうならせたことが忘れられない。オーガニック、フェアトレード、3Rなど、いわゆる「エシカル(地球環境や人道的な配慮をもった)」「サステナブル(持続可能な)」といったファッションの流れが生じると同時に、もう一つの道筋が、やはり2000年を境に浮かび上がってきた。クラフツマンシップの見直し、ものづくりへの新たな価値付けという現象だ。
-ラグジュラリーブランドのアクション
大量生産という魔法の技を使って、お洒落なアイテムを安価に消費者に届ける「ファストブランド」のマーケットが確立し始めたのも、2000年過ぎた頃から。マーケットは極端なニ極化の構図へと向かい、ハイエンドのステージを築くラグジュアリーブランドは、「丁寧なものづくりによる一生もの」「世界に一つしかない手作りの価値」を打ち出すために、クラフツマンシップの価値を見直すアクションをとり始める。それは、消費者にとっては、「大量消費」というアディクティットな状況から脱するのには、恰好な道筋だった。「いいものを買って、大切に長く使う」というある種知的なショッピングは、物欲を賢く満たし、そして心を癒してまでもくれるからだ。
-伝統工芸との出会い
欧米のファッションを追いかけ、雑誌の編集長時代は『プラダを着た悪魔』的生活を送っていた私だが、2年前からシフトして、いまでは日本のものづくりに注目している。伝統工芸世界との出会いは、2年前の金沢でのこと。ファッションコンクールの審査委員長を頼まれ、金沢に出向いた私は、たまたま伝統工芸の職人さんの工房を訪ねる機会を得たのだ。このことがきっかけとなって、いまや私の最大の関心事は「日本の伝統工芸の世界発進」へと発展している。工芸ルネッサンス、未来の伝統を生み出すプロジェクトを「WAO(ワオ)」と名付け、すでにパリ、ニューヨークで発表、国内でもデパートへの出展を繰り返し、全国の職人さんの工房を訪ねる機会も多いこのごろだ。まさに「おしゃれなものづくりこそが未来を開く!」と信じて、新しい扉を開ける毎日なのだ。
-ブランディングこそ必要!
ちなみに、すべてのラグジュアリーブランドのルーツは、クラフツマンシップである。ところが、伝統工芸が山ほどあるこの日本からは、いまだラグジュアリーと呼べるブランドが育ってきていない。伝統と革新、という21世紀の命題に直面している日本の「ものづくり」世界、そして産業——。なにより、日本人自身がその価値に目覚め、ブランディングしていくべきなのに、現状は、いまだにスローな状態だ。後継者がいない、販路が絶たれている、価格が高くて売れない、などなど、伝統工芸世界の問題は山積み状態だ。
-ファッション×伝統工芸
シャネル(Chanel)が2002年、パリの伝統的なクチュールメゾン(刺繍、コラージュ等)を5社、買収したというニュースは、まさに21世紀のファッションの夜明けを物語っていた。パリのクチュール工房も、日本の伝統工芸の世界と同じく、経営難、後継者不足といった状況を抱えていたのだ。それを解決させ、同時に新たなクリエイションへと結びつけ、「メティエ・ダール(フランス語で工芸の意味)」コレクションを誕生させた。この「夜明け」ともいえる徴候は、いま日本でも見られる。デザインを進化させよう、あるいはしきりを超えて、積極的に他ジャンルとコラボレーションしようという動きだ。
とりわけ、伝統工芸世界を取り込もうとするデザイナーたちのアクションは、最近になって話題だ。振り返れば、三宅一生(Issey Miyake)は、70年代からすでに日本の伝統素材を取り込むという革命的な服作りを発表して欧米のジャーナリストをうならせてきたという経緯があるが、21世紀のいままた、新たな革命は起こりつつある。西陣織の素材と組む、MIHARAYASUHIRO。会津塗りと組むSOMARTA。宮染めに挑戦するaraisara。京都の仏師と組む靴デザイナー、串野真也(Masaya Kushino)。江戸切子や水引と組むジュエリーブランドSIRI SIRIなど、新しい感性と技術とで、伝統工芸世界をファッションに取り込もうとする動きが見逃せない。
これらの動きをくくって、展覧会「GOTHICOUTURE〜ファッションと伝統工芸が出会うとき〜」を10月5日から23日まで表参道のGYRE ビルのアートギャラリー、EYE OF GYRE にて開催する予定だが、最先端のファッションと、西陣織の帯、仏像、江戸切子のガラスなど日本を代表する伝統工芸世界がコラボレーションするいままでにない空間が出現する。伝統工芸がファッションに溶け込む様をぜひ、目撃していただきたい。
もう一つは、この10月に青山の工芸ショップ「RIN」にて紹介される、シアタープロダクツと波佐見焼きのコラボレーション・コレクション。ナプキンの形状を象ったお皿や、傘やバッグの形をした花瓶など、トロンプルイユ的なセラミック作品は、かつてない自由な発想の工芸作品として注目される。
-伝統工芸はもっとスタイリッシュに!
日本の伝統工芸作品を海外で紹介した経験からは、多くを学んだ。何より「ディテールの美」を、海外の人々は指摘する。そこに、人々はうっとりとするのだ。丁寧なものづくり。繊細なものづくり。自然と共生する生活の中から育まれてきた文化。エコ、エシカル、究極の美意識をも宿したこの文化を、最先端のデザイン、ファッションともっともっと繋ぐ“革命”が起こせたらーーと、果てしない夢を思い描く今日この頃だ。【生駒芳子】
プロフィール:
ファッション・ジャーナリスト/アート・プロデューサー。東京外国語大学フランス語科卒業。 フォトジャーナリストとして旅行雑誌の取材、編集を経験。 その後、フリーランスとして、雑誌や新聞でファッション、アートについて執筆/編集。1998年よりヴォーグ・ニッポン、2002年よりエルジャポンで副編集長として活動の後、2004年よりマリ・クレール日本版・編集長に就任。2008年11月独立。ファッション、アート、ライフスタイルを核として、クール・ジャパン、社会貢献、エコロジー、女性の生き方まで、幅広く講演会出演、プロジェクト立ち上げ、雑誌や新聞への執筆に関わる。工芸ルネッサンスWAO総合プロデューサー、クール・ジャパン審議会委員、公益財団法人三宅一生デザイン文化財団理事、NPO「サービスグラント」理事、JFW(東京ファッションウィーク)コミッティ委員など。エスモード・ジャポン講師、杉野服飾大学大学院講師を務める。
(c)MODE PRESS
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-エシカルとクラフツマンシップ
急激な変化は、パリ、ミラノでは早急には見つからなかった。唯一、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)が、植物に覆われたステージでショウを行ったり、待ち合いのティータイムにハーブティーやオーガニッククッキーでもてなすなどエコの要素を取り入れ、「さすが、ステラは早い!」と皆を早々とうならせたことが忘れられない。オーガニック、フェアトレード、3Rなど、いわゆる「エシカル(地球環境や人道的な配慮をもった)」「サステナブル(持続可能な)」といったファッションの流れが生じると同時に、もう一つの道筋が、やはり2000年を境に浮かび上がってきた。クラフツマンシップの見直し、ものづくりへの新たな価値付けという現象だ。
-ラグジュラリーブランドのアクション
大量生産という魔法の技を使って、お洒落なアイテムを安価に消費者に届ける「ファストブランド」のマーケットが確立し始めたのも、2000年過ぎた頃から。マーケットは極端なニ極化の構図へと向かい、ハイエンドのステージを築くラグジュアリーブランドは、「丁寧なものづくりによる一生もの」「世界に一つしかない手作りの価値」を打ち出すために、クラフツマンシップの価値を見直すアクションをとり始める。それは、消費者にとっては、「大量消費」というアディクティットな状況から脱するのには、恰好な道筋だった。「いいものを買って、大切に長く使う」というある種知的なショッピングは、物欲を賢く満たし、そして心を癒してまでもくれるからだ。
-伝統工芸との出会い
欧米のファッションを追いかけ、雑誌の編集長時代は『プラダを着た悪魔』的生活を送っていた私だが、2年前からシフトして、いまでは日本のものづくりに注目している。伝統工芸世界との出会いは、2年前の金沢でのこと。ファッションコンクールの審査委員長を頼まれ、金沢に出向いた私は、たまたま伝統工芸の職人さんの工房を訪ねる機会を得たのだ。このことがきっかけとなって、いまや私の最大の関心事は「日本の伝統工芸の世界発進」へと発展している。工芸ルネッサンス、未来の伝統を生み出すプロジェクトを「WAO(ワオ)」と名付け、すでにパリ、ニューヨークで発表、国内でもデパートへの出展を繰り返し、全国の職人さんの工房を訪ねる機会も多いこのごろだ。まさに「おしゃれなものづくりこそが未来を開く!」と信じて、新しい扉を開ける毎日なのだ。
-ブランディングこそ必要!
ちなみに、すべてのラグジュアリーブランドのルーツは、クラフツマンシップである。ところが、伝統工芸が山ほどあるこの日本からは、いまだラグジュアリーと呼べるブランドが育ってきていない。伝統と革新、という21世紀の命題に直面している日本の「ものづくり」世界、そして産業——。なにより、日本人自身がその価値に目覚め、ブランディングしていくべきなのに、現状は、いまだにスローな状態だ。後継者がいない、販路が絶たれている、価格が高くて売れない、などなど、伝統工芸世界の問題は山積み状態だ。
-ファッション×伝統工芸
シャネル(Chanel)が2002年、パリの伝統的なクチュールメゾン(刺繍、コラージュ等)を5社、買収したというニュースは、まさに21世紀のファッションの夜明けを物語っていた。パリのクチュール工房も、日本の伝統工芸の世界と同じく、経営難、後継者不足といった状況を抱えていたのだ。それを解決させ、同時に新たなクリエイションへと結びつけ、「メティエ・ダール(フランス語で工芸の意味)」コレクションを誕生させた。この「夜明け」ともいえる徴候は、いま日本でも見られる。デザインを進化させよう、あるいはしきりを超えて、積極的に他ジャンルとコラボレーションしようという動きだ。
とりわけ、伝統工芸世界を取り込もうとするデザイナーたちのアクションは、最近になって話題だ。振り返れば、三宅一生(Issey Miyake)は、70年代からすでに日本の伝統素材を取り込むという革命的な服作りを発表して欧米のジャーナリストをうならせてきたという経緯があるが、21世紀のいままた、新たな革命は起こりつつある。西陣織の素材と組む、MIHARAYASUHIRO。会津塗りと組むSOMARTA。宮染めに挑戦するaraisara。京都の仏師と組む靴デザイナー、串野真也(Masaya Kushino)。江戸切子や水引と組むジュエリーブランドSIRI SIRIなど、新しい感性と技術とで、伝統工芸世界をファッションに取り込もうとする動きが見逃せない。
これらの動きをくくって、展覧会「GOTHICOUTURE〜ファッションと伝統工芸が出会うとき〜」を10月5日から23日まで表参道のGYRE ビルのアートギャラリー、EYE OF GYRE にて開催する予定だが、最先端のファッションと、西陣織の帯、仏像、江戸切子のガラスなど日本を代表する伝統工芸世界がコラボレーションするいままでにない空間が出現する。伝統工芸がファッションに溶け込む様をぜひ、目撃していただきたい。
もう一つは、この10月に青山の工芸ショップ「RIN」にて紹介される、シアタープロダクツと波佐見焼きのコラボレーション・コレクション。ナプキンの形状を象ったお皿や、傘やバッグの形をした花瓶など、トロンプルイユ的なセラミック作品は、かつてない自由な発想の工芸作品として注目される。
-伝統工芸はもっとスタイリッシュに!
日本の伝統工芸作品を海外で紹介した経験からは、多くを学んだ。何より「ディテールの美」を、海外の人々は指摘する。そこに、人々はうっとりとするのだ。丁寧なものづくり。繊細なものづくり。自然と共生する生活の中から育まれてきた文化。エコ、エシカル、究極の美意識をも宿したこの文化を、最先端のデザイン、ファッションともっともっと繋ぐ“革命”が起こせたらーーと、果てしない夢を思い描く今日この頃だ。【生駒芳子】
プロフィール:
ファッション・ジャーナリスト/アート・プロデューサー。東京外国語大学フランス語科卒業。 フォトジャーナリストとして旅行雑誌の取材、編集を経験。 その後、フリーランスとして、雑誌や新聞でファッション、アートについて執筆/編集。1998年よりヴォーグ・ニッポン、2002年よりエルジャポンで副編集長として活動の後、2004年よりマリ・クレール日本版・編集長に就任。2008年11月独立。ファッション、アート、ライフスタイルを核として、クール・ジャパン、社会貢献、エコロジー、女性の生き方まで、幅広く講演会出演、プロジェクト立ち上げ、雑誌や新聞への執筆に関わる。工芸ルネッサンスWAO総合プロデューサー、クール・ジャパン審議会委員、公益財団法人三宅一生デザイン文化財団理事、NPO「サービスグラント」理事、JFW(東京ファッションウィーク)コミッティ委員など。エスモード・ジャポン講師、杉野服飾大学大学院講師を務める。
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