ゼロ年代の演出家・藤田貴大が語る「おんなのこ」の美【前編】
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【5月15日 MODE PRESS】演劇団体「マームとジプシー(Mum & Gypsy)」を率いる藤田貴大(Takahiro Fujita)は、“演劇界の芥川賞”といわれる岸田國士戯曲賞を26歳で受賞した気鋭の劇作家・演出家。故・蜷川幸雄(Yukio Ninagawa)も一目を置いた存在で、いまや現代演劇シーンの中心人物の1人となっている。衣装デザインにはスタイリストの大森伃佑子(Yoko Omori)やスズキタカユキ(suzuki takayuki)、「ミナ ペルホネン(mina perhonen)」の皆川明(Akira Minagawa)が参加するなど、その舞台にはファッション界からも注目が熱い。
今月ルミネゼロ(LUMINE0)で発表された新作公演「sheep sleep sharp」では、ドイツのブランド「トリッペン(trippen)」の靴をフィーチャーし、「スリー(THREE)」がメイクアップを担当した。今までの演劇のイメージを覆す、このスタイリッシュな世界観はどこに起因するのだろう? 次世代の演劇界を牽引する演出家に、その独特の美意識と女性像について語ってもらった。
■10年間、劇団員のいない劇団
1985年、北海道生まれの藤田は、桜美林大学在学中に「マームとジプシー」を旗揚げした。今年劇団は10周年を迎え、夏には4つのアーカイブ作品を6都市で巡演する。旗揚げから一緒に活動するメンバーも多くいるが、基本的に「マームとジプシー」は藤田一人だ。所属の俳優はおらず、公演ごとに人を集める。
昨年、東京芸術劇場にて上演された「ロミオとジュリエット」では、スタイリストの大森伃佑子や、音楽を担当した石橋英子(Eiko Ishibashi)、須藤俊明(Toshiaki Sudoh)、山本達久(Tatsuhisa Yamamoto)など、まずはキャスト以外のチームを作った。スタッフも出演者と同じように「キャスティング」するのが藤田流。この独特のスタイルは10年間ずっと変わらず、ときには俳優に出演をオファーするのが最後になることもあるという。
■又吉直樹も、もともと観客の一人
10歳から地元劇団で子役として活動している藤田は、自称「演劇しかやってない、バリバリの演劇人」。だが異ジャンルのクリエイターとのコラボレーションも多く、これまでに漫画家の今日マチ子(Machiko Kyo)や歌人の穂村弘(Hiroshi Homura)、作家で芸人の又吉直樹(Naoki Matayoshi)とも共同作業として作品を作ってきた。公演のチラシや本の装丁にも人気ブックデザイナーの名久井直子(Naoko Nakui)を起用するなど、その大胆な人選から生まれる作品は、多くの人を驚かせている。
「なぜこうなったのか、自分でも不思議。出会うための努力はしていない」と藤田本人はいたって自然体。穂村弘や又吉直樹も、もともと「マームとジプシー」の観客だったのをきっかけにコラボレーションが実現した。演劇以外の分野の人たちを巻き込んでいく藤田の才能は、2000年以降に台頭した“ゼロ年代”の演出家らしい強みとも言える。