【6月24日 MODE PRESS】ユニクロ(Uniqlo)の2013年秋冬物の新作は、これまでのブランドイメージを大幅に変えるものだった。豊かな色彩とプリント柄、そしてアーティスティックな香り……。それは間違いなくファッションの一つの表現といえる。しかし、これらの服の一つひとつを構成しているのは、ヒートテックやフリース、ウルトラライトダウンといったユニクロ独自のプロジェクト。そして価格もユニクロのプライスゾーンに治まっている。

 「LifeWear」というコンセプトで打ち出したこの形は、トレンド優先で品質・機能性は二の次のファストファッションとも、高価格のラグジュアリーブランドとも異なるファッションの新たなカテゴリーとなる可能性も感じさせる。

 そんなユニクロの変身の大きな一翼を担ったに違いないデザインディレクター、滝沢直己(Naoki Takizawa)に話を聞いた。滝沢は三宅一生の後継者としてイッセイミヤケのデザインを2006年まで務めた後、自身のブランドやヘルムート・ラングのメンズを手掛け、去年にユニクロ初のデザインディレクターに就任。すでに今年春夏物の一部をデザインしたが、今回の秋冬から本格的に全アイテムのディレクションに関わった。

■インタビュー:滝沢直己

―これまでのハイファッションのデザインと比べて、どこが違いました?
 
「高機能な素材とベーシックなアイテム。それらを生かすことは、まず着る側の視点に立つことにつながります。そしてデザインのターゲットを限定しないこと。そうした意味ではいわば全く新しい体験でした。服とは本来そうしたものだということに改めて気付かされた思いです」

―LifeWearの意味とは?
 
「着るための生活用具であって、同時にそれによって生活や社会とのつながりから生まれる感覚や感情を表現できる服でもあること。そうしたエモーショナルなものを服に取り込むことが服の作り手の仕事です。トレンドや流行、またデザイナーの主観的なクリエーションを押し付けることではないのです」

 だが、服の作り手と大勢の着る人の気持ちを結びつけることは、そう簡単なことではない。それに作り手にとっては、素材や製作コストなどさまざまな制約もある。

―気持ちが通じるためには、どんなことが必要なのでしょう?

 「大切なことは、五感によって通じ合うこと。そのためには、着る側の人たちとコミュニケーションを積み重ねていくことが必要です。LifeWearはコミュニケーションの手段でもあると思っています。これからの服、ファッションにはそうしたストーリーが求められるのです」

―ストーリーも制約の一つになってしまいませんか。

 「ある意味ではそうですが、逆に制約こそが工夫や新たな発想を生み出すことが分かった。なんの制約もなくて全く自由に作っていいといわれるとかえって困る。少なくとも僕はそうです」

―より良い服を作るために価格を少し上げる、という選択はありませんでしたか?

 「それはない、というのが柳井さん(ファーストリテイリング会長兼社長)の強い意向です。そのためには服の制作のあらゆるプロセスで無駄を省く工夫が必要なのですが、やってみると実はその余地がずいぶんあることにも気が付いた。価格を抑えることは、多くの人にとって手に入れやすいという大切な要素でもあるわけですから」

 新作は、ヒートテックやフリース、ウルトラライトダウンといった定番の素材、アイテムに新たに素材開発したシルク、超ストレッチのデニムなど12のプロジェクトに分けた計108体を展示。色調とカラーバリエーションが格段にアップし、コーディネートの仕方にも以前のユニクロの服にはなかったアート性が感じられる。また、ヒートテックの保温性は1.6倍に、ライトダウンはさらに薄く軽くなるなど機能性も向上している。

―この服を大勢の人が着るわけですね。

 「自分がデザインした服が何千万着も世界中で着られるというのは、どきどきするような喜びとプレッシャーをもたらせます。集中して自分をフル活用し続けなければ任務を全うできない、と思っています。大勢の人が着るということは、色の使い方ひとつでも目や肌の色の多様性を考えなければいけないのです」

 滝沢はイッセイミヤケで服のアート的な表現と、また同時にプリーツ・プリーズなどの機能的でプロダクトとしての服の可能性についての経験も積んだ。また、独立後にはファッショナブルなスポーツウエアのデザインにも取り組んだ。その才能と経歴は、今回のユニクロの試みにとっては他に人がなかったともいえるだろう。また今後は、大量に作る服のリサイクル、生産工場での働く環境の向上といった課題にも取り組むことも求められる。それもまたデザインの力の一つなのだから。【上間常正】(c)MODE PRESS