東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の様子(c)AFPBB News

 
 未来を担う生徒と地元企業の橋渡しをして持続可能な世界をともに考える──。商工組合中央金庫(商工中金)の新たな取り組みが東京都内で始まった。

 東京・八王子市郊外の自然豊かな山裾に立地する聖パウロ学園で10月4日、同市に本社を置く内野製作所を迎え、持続可能な開発目標(SDGs)について学ぶ特別授業が行われた。

 サステナブルファイナンスなどを通じた環境・社会への貢献を目指す商工中金が、地域の企業とタイアップして、子どもたちのSDGs学習をサポートする。

「地域に貢献する内野製作所のSDGsの取り組み」と題した授業には17人の高校生が参加。内野製作所や担当教員、商工中金職員の助言を受けながら、グループディスカッションが行われ、SDGsの達成に向けた地元企業の活動が、八王子市のみならず社会にどのような影響を与えられるのかを考えた。

地元企業とSDGs
東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の様子(c)AFPBB News

 授業の冒頭、内野製作所が同社のSDGsに対する取り組みを紹介した。

 創業から95年を迎える内野製作所は、織物機械の修理から事業をスタート。自動車部品の加工を経て現在、自動車やバイクの精密歯車の製造を手掛ける。量産ではなく試作品のメーカーとして、最新技術を駆使し、約80社と取引している。

 2011年、八王子市戸吹町に新社屋を建設。自然光を積極的に採り入れるデザインを採用した。二つの工場には太陽光パネルを約400枚設置。モニターに発電量と石油換算値を表示し、社員の環境意識向上を促している。

 また、独自のアプリから就業規則が確認できるようにしたり、生産管理システムを整備したりするなど、ITの導入でペーパーレス化を進めている。環境配慮に取り組む他、女性管理職の積極登用、労働環境の向上や従業員のモチベーション向上にも力を入れている。

 商工中金八王子支店の末次隆浩支店長は、八王子市がかつて織物や織物機械の製造が盛んだった歴史を紹介。その後、産業構造が変わり、機械関連などの製造業が発展してきた経緯を説明した。

企業の取り組みを学び伝える


 参加した女子生徒は、地元企業からSDGsの活動を直接聞くことができ、とても貴重な経験だったと話す。「私自身にとって新たな発見や気づきを学べたので、これからSDGsについて一人の人として考えていくいい機会になった」

 グループワークでは、感じたことや気付いたことを付箋に書き込み、各メンバーの考えを共有。内野製作所の活動が、社会とどのようにつながっているのかを議論し、その取り組みを地域社会に伝える方法をまとめた。

東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の様子(c)AFPBB News

 発表では、持続可能な社会に向けた企業努力を短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」などのSNSを通じて発信することで、SDGsに関心のある若い人材を獲得でき、地域の経済活性化につなげられるのではないかとの提案があった。

 また、社内での健康や福祉に対する取り組みを伝えるために、SNSのような現代のコミュニケーションツールだけではなく、昔ながらの張り紙にメッセージや情報を書き込み、多くの人が利用するトイレに掲示することも有効ではないかとの声も上がった。

次世代の新しい発想
東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の様子(c)AFPBB News

 内野製作所の内野徳昭代表取締役社長は、学生の新しい発想は新鮮で参考になったと評価し、「僕らが考えつかないようなことをどんどん若い力で発信してもらって、逆に僕らに刺激を与えてほしい」と期待を寄せた。

 SDGsについては、「実際に台風がたくさんきたり、災害が起こったりするような世の中になっている。世界を変えるということは若い10代の皆さんの考え一つなんじゃないかと思う」と、SDGsへの積極的な関わりを呼び掛けた。

 商工中金・サステナビリティ推進室の新倉奈々氏は、生徒が意見を尊重し合い、新しいことを考える姿勢が印象的だったと言う。

「今時のSNSの活用からトイレの張り紙という原始的でありながら非常に有効なユニークなアイデアもあり、勉強になった」と話した。

 また、新倉氏は、SDGsと企業活動の間の距離がますます縮まると指摘。「世界中の企業が、SDGsに取り組むことはビジネスとしてうまくやるために重要なことだと認識し始めている。皆さんの就職はまだ先だと思うが、将来、社会に出て働くことへの考えが深まったと思う」と語った。

 小島綾子教頭によると、現在の教育現場では生徒たち自身で考えて表現することがますます求められているという。今回の特別授業では、「生徒たちが学校の中だけでは得られない学びを生き生きと得ていく姿を見ることができた」と振り返る。

「自分たちが暮らす八王子の町でどんな企業がどんな取り組みをしているのか、将来そんなところに参加していくという、そういう思いにつながったところが、生徒たちの大きな変化であり、学びだった」と、小島教頭は続けた。

東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の様子(c)AFPBB News

 
未来を変えていくための知識


 参加した高校3年生の男子生徒は、「自分たちで意見を出して、次はグループで話し合い、その意見をみんなで発信する授業はなかなかない。いい体験ができた」と話した。

「SDGsは、2030年までに世界が取り組んでいく課題。世界だと規模が大きく感じて自分たちにできることは何だろう、となる。その中で身近な企業が行っているSDGsの取り組みを知ることで、自分たちもできることがあるのかなと思った」

東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の様子(c)AFPBB News

 また、女子生徒は、「SDGsと聞いたら環境問題がすぐ頭に浮かんでいたが、きょう話し合った友達は人材という面でSDGsに視点を向けていた。新しい気付きになった」と話す。

 地元企業や金融機関がSDGsに取り組んでいることを「全く何も知らない状態だったので、このような機会をいただけて、私たちの身近にある企業の取り組みを知ることができた」と感想を述べた。

東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の参加者(c)AFPBB News

 別の女子生徒は授業に参加していない友達に向けて、「自分たちが変えていかなくちゃいけない未来だと思うので、変えていくための知識をつけるために、自分から学んでみない?と言ってみたい」と話した。

金融機関がサポートする持続可能な社会


 教育の現場に関わるのは、商工中金としても新しい取り組みだという。新倉氏は、生徒の活発な議論を見て、若い世代への期待を強く感じたという。

「商工中金は持続可能な社会・環境に向けて取り組みを進めている。特に持続可能というのは未来に向けた取り組み。若い世代とコミュニケーションを取って、新しい発想を採り入れたい」と、新倉氏は話す。

 今後、SDGsに取り組むに当たり、「地域社会の皆さまと若い世代の皆さまの意見を採り入れて、より良い社会にしていくにはどうしたらいいかを一緒に考えていけたら」と、先を見据えた。

東京都八王子市にある聖パウロ学園で行われた特別授業の参加者ら(c)AFPBB News