【6月10日 AFP】ドイツで今月、移民擁護派の地方政治家が自宅で射殺される事件があり、これを歓迎するヘイトスピーチ(憎悪表現)がインターネット上にあふれている。ドイツ政府は7日、ヘイト投稿を強く非難した。

【あわせて読みたい】「ロヒンギャへのヘイト拡散」 フェイスブックに批判

 ホルスト・ゼーホーファー(Horst Seehofer)内相は「もし誰かが、リベラルな見解を持っていたというだけですさまじい憎悪の対象となるのなら、それは人間らしい道徳観が衰退しているということだ」と独日刊紙ターゲスシュピーゲル(Tagesspiegel)に語った。

 殺害されたのは、独中部カッセル(Kassel)県のワルター・リュブケ(Walter Luebcke)県知事(65)。アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に所属する政治家で、移民の擁護を公言していた。

 リュブケ氏は2日午前0時半(日本時間同午前7時半)ごろ、フランクフルト(Frankfurt)から北東に約160キロ離れたカッセル市内の自宅テラスで、至近距離から頭を拳銃で撃たれて死亡しているのが見つかった。自殺を示す兆候はなく、警察は殺人事件として捜査している。

 捜査当局によると、犯行の動機は不明だが、リュブケ氏は以前から殺害を予告する脅迫を何度となく受けており、政治的な動機による事件の可能性は排除できないという。

 リュブケ氏の追悼記事や事件の報道を受け、ソーシャルメディア上には多くのコメントがあふれた。だが、同氏の殺害を歓迎する投稿が多くみられることから、フランクワルター・シュタインマイヤー(Frank-Walter Steinmeier)大統領も強い不快感を表明。「公務員や行政トップに対する中傷や攻撃、ヘイト運動、肉体的暴力は正当化できない」と述べた。

 リュブケ氏は、欧州に難民・移民が殺到して危機的状況となっていた2015年10月、難民らの保護施設を訪問し、助けを必要とする人々に手を差し伸べるのはキリスト教の基本的な価値観だと発言。「こうした価値観に同意せず、身をもって示さない者は皆、いつでもこの国から出ていってもらって構わない。それは全てのドイツ人の自由だ」と述べ、極右主義者の激しい怒りを買っていた。(c)AFP