海水淡水化、真水上回る量の有毒物質発生 「酸欠海域」形成の恐れも
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【1月15日 AFP】世界中に散在する1万6000か所以上の海水淡水化(脱塩)施設は、生産される真水よりはるかに多量の有害な汚染物質を発生させるとする、この分野の産業廃棄物に関する初の世界規模の調査結果が14日、発表された。
環境科学の学術誌「サイエンス・オブ・ザ・トータル・エンバイロメント(Science of the Total Environment)」に掲載された論文によると、海や汽水河川から真水を1リットル抽出するごとに、1.5リットルの塩分濃度の極めて高い懸濁液(ブライン)が海洋や土壌中に直接排出される。
ブラインは、淡水化処理で用いられる化学物質によってさらに毒性が高くなるという。淡水化処理には、銅や塩素などが一般的に用いられる。
世界で発生するブラインの量は年間500億立方メートルに及び、米フロリダ州、または英イングランドとウェールズを合わせた面積を、厚さ30センチの層で覆うのに十分な量だと、研究チームは推定している。
論文の共同執筆者で、カナダ・オンタリオ(Ontario)州にある国連大学(United Nations University)水・環境・保健研究所(Institute for Water, Environment and Health)の科学者のマンズール・カディル(Manzoor Qadir)氏は、AFPの取材に「世界で生産される脱塩水は、ブラインより少ない」と語り、「ブラインはほぼすべてが自然環境、主に海洋に戻される」と加えた。
沿岸水域では過剰な塩分が原因で海水温が上昇し、それに伴い水中の酸素濃度が低下して「デッドゾーン(酸欠海域)」が形成される可能性がある。
「このような環境では、水生生物が呼吸するのは困難になる。水生生物が生き残るには酸素が不可欠だ」と、カディル氏は説明した。
ブラインの半分以上がサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールのわずか4か国から排出されており、それぞれの割合はサウジアラビアが22%、UAEが20.2%、クウェートが6%、カタールが5.8%となっている。
北アフリカ、中東、太平洋小島しょ国や他の水不足の地域などは、安全な飲料水を供給するために海水淡水化に大きく依存している。飲料水は消費量の3分の2近くを占め、残りは工業分野で発電時の冷却水としてや、農業分野などで使用される。
国連(UN)によると、世界の約4人に1人は年間の一時期に水資源が不足する地域に暮らしており、年間を通して水不足に見舞われている人は5億人に上るという。
「海水淡水化技術は多くの人々に恩恵をもたらしてきた」と、カディル氏は話す。「だが、ブラインの発生は見過ごすことはできない。今後さらに大きな問題に発展するからだ」
カディル氏は、現在の傾向が続くと海水淡水化分野の処理施設は2025年までに合計で1万7500か所以上に達するとして、大型施設1か所で小型施設200~300か所に相当する量の真水(およびブライン)の生産が可能だと指摘した。(c)AFP/Marlowe HOOD