禅僧ティク・ナット・ハン師、母国ベトナムに永住帰国 当局は監視
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【11月26日 AFP】欧米諸国にマインドフルネスを伝えた功績で世界的名声を博した禅僧ティク・ナット・ハン(Thich Nhat Hanh)師(92)が先月、母国ベトナムに永住帰国した。ただ、同師の元へ多数の信奉者が詰めかける一方、秘密警察による監視が続いている。
平和活動家でもあるティク・ナット・ハン師は、40年近くにわたる亡命生活の間、世界各地で修養施設を創設し、マインドフルネスや瞑想(めいそう)などに関する本を100冊以上執筆。
同師の著作は、米有名女性司会者オプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)さんや米ニュースサイト「ハフィントン・ポスト(Huffington Post)」の創業者であるアリアナ・ハフィントン(Arianna Huffington)氏、IT業界の富豪、マーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏らの支持を受け、世界全体で4兆2000億ドル(約474兆円)規模にまで成長したウエルネス産業の礎となった。
ハリウッド(Hollywood)のセレブやシリコンバレー(Silicon Valley)の重役たちにマインドフルネスをもたらした同師は当初、ベトナム戦争の終結を求めたため祖国追放の憂き目に。
反戦的な立場を取ったため、南ベトナムと北ベトナムの双方から裏切りとみなされて帰国を禁じられ、フランスで39年にわたる亡命生活を余儀なくされた。
だがティク・ナット・ハン師は、あらゆる信仰が厳しく統制された母国ベトナムを含む世界各国で信教の自由を唱道。
2014年に脳卒中に見舞われ、会話や歩行が不自由となったティク・ナット・ハン師は先月、ベトナム仏教の中心地、古都フエ(Hue)のトゥヒエウ(Tu Hieu)寺院で余生を送ることが認められた。だが晩年に至っても、建物の外では私服警官による同師への厳重な監視が続けられている。
長年付き人を務める人物の一人は匿名で取材に応じ、「完全に自由な国というわけではない。全てが監視下にあり、政府はいつも全てのものを統制下に置きたがる」と話した。
仏教徒が人口の多数を占めるとはいえ、一党独裁体制を敷く同国の政府は、とりわけ国内外に多数の信者を抱えるティク・ナット・ハン師のような指導者の存在に神経をとがらせている。
先月の帰国以来、同師が寺院を囲む緑豊かな庭園を散歩すると大勢の人々が集まるが、そのほとんどは同師の政治的な発言ではなく、スピリチュアルなメッセージに傾倒している人々だ。
弟子たちによると、ティク・ナット・ハン師は祖国に帰ってきたことを非常に喜んでおり、長い間平和を追い求めてきた後、ようやくくつろげているという。
側近の尼僧は、「彼はもう闘わない。ただ余生を楽しんでいるだけだ」と語った。(c)AFP/Jenny VAUGHAN