可動部のない静音飛行機、「歴史的」飛行実験に成功
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【11月22日 AFP】SF世界の宇宙船の青い光を放つ推進装置が現実に一歩近づいた。米国の物理学者チームが21日、帯電した空気中の分子を動力に飛行する、可動部のないソリッドステート飛行機を発表した。
1903年冬にオービル(Orville Wright)とウィルバー(Wilbur Wright)のライト兄弟が画期的な有人動力飛行を成功させて以来、飛行機の推進装置にはプロペラやジェットが使われてきた。これらは飛行の維持に必要な推進力と揚力を作り出すために、燃料を燃焼させる必要がある。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、電気空気力学として知られる推進方式の開発に成功した。これまで、この方式を飛行機の動力源とするのは実現不可能と考えられていた。
研究チームは翼幅5メートルの新型飛行機を、秒速4.8メートルで55メートル飛行させることに成功した。
試作機を設計したスティーブン・バレット(Steven Barrett)氏は「未来の飛行機は、(SF映画)『スター・トレック(Star Trek)』に出てくるように青く発光する部分があり、空中を静かに滑るように進むものであるはずだ」と話す。
バレット氏の飛行機には、プロペラやソーラーパネルはおろか、可動部品が何一つない。動力を供給するのはエンジンではなく、二つの主要部分から構成される推進システムだ。
機体の前部にある軽量ワイヤで構成された一連の平行電極でプラス2万ボルトの高電圧を発生させると、電極の周囲の空気に過剰なエネルギーが与えられ、イオンとして知られる正の電荷を帯びた窒素分子が生成される。
機体の後方にある翼形の電極にマイナス2万ボルトの電圧をかけると、窒素分子イオンが陽極から陰極へと自動的に移動する。このイオンの動きによって大気中の粒子が同じ方向に引きずられることで、飛行機に揚力を与える「イオン風」が発生する。
イオン風を発生させる技術は1960年代から存在するが、航空学にとって有益と証明されるほどの高効率には程遠いとこれまで考えられていた。
研究チームは、イオン推進機の飛行が可能であることを示しただけでなく、電極部で生じる抵抗が比較的小さいため、飛行速度の上昇に伴い効率も向上することで、将来的に飛行機の大型化と高速化の道が開ける可能性があると予測している。
今回の成果をまとめた論文は英科学誌ネイチャー(Nature)で発表された。同時掲載の解説記事には、静音のドローンや航空機、赤外線信号を発しない検知不可能なエンジンなどの開発を含む、考えうる軍事的用途が列挙されている。試作機の飛行は「賞賛と不安の両方を喚起するに違いない」と、解説記事は記している。
ネイチャー誌は115年前、ライト兄弟の「史上初の有人動力飛行成功」に関する短い記事を掲載した。
バレット氏と研究チームは今回の画期的な実験と、航空時代の口火を切ったライト兄弟の実験との間に喜ばしい共通点があると指摘している。どちらも飛行がわずか12秒間しか続かなかったことだ。(c)AFP/Patrick GALEY