【11月1日 AFP】北朝鮮では警察官や当局者による女性への性的虐待が横行しているにもかかわらず、罪に問われることがほぼ皆無だとの報告書を、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)が1日、発表した。広範な人権侵害をめぐって国連(UN)を筆頭に多くの非難を浴びている北朝鮮だが、性的虐待に関する実態が表ざたになることはまれだ。

 報告書は、脱北者50人以上を対象に聞き取り調査を行った結果をまとめたもの。国境警備隊などの治安関係者だけでなく、事務系の公務員によっても女性たちが食い物にされ、レイプをはじめとする虐待が長年まん延しているおぞましい状況が克明に記されている。

 北朝鮮社会は階級制と家父長制が根強いが、男性が国から割り当てられた職場で働かなければならないのに対し、女性には職場の割り当てがなく、自宅を留守にしていても気付かれにくいため、男性よりも移動の自由がある。こうした背景から、市場の行商人や脱北者には圧倒的に女性が多い。

 報告書によると、中国に逃げようとして捕まったり、脱北した後に北朝鮮に送還されたりした女性たちには無情な罰が待ち構えている。拷問や投獄だけではなく、性的虐待もその一つだという。

「毎晩、何人かの女性が看守に連れ出されてはレイプされていた」と、国境の拘置所に拘束されて虐待された経験のある30代の女性は証言した。「毎日、夜になると看守が監房の扉を開ける。私はじっと息をひそめて立ち、気付いていないふりをした。自分の番が来ないよう祈りながら」

■「男たちのなすがまま」

 また、中国で買い付けた物品を密輸入して北朝鮮政府の認可を受けた市場で売っている行商人の女性たちは、国営企業の幹部たちや「警察官、検察官、兵士、鉄道の検札官」など移動中や市場の出入りの際に出くわす公務員たちから賄賂を要求され、性的な接待も強要されると報告書は指摘している。

 織物の行商をしていたという40代の女性は、「男たちのなすがまま」性具のようにもてあそばれたと回想した。市場では警備員や警察官に「付いて来い」と言われて市場外の空き部屋などに連れて行かれ、性行為を強要されたという。

「いつものことなので、誰も一大事だなんて思わない。女性たち自身、いやな思いをしていることに気付いてすらいない」と語ったこの女性は「でも、私たちも人間なので、心の中では傷ついている」と続けた。「だから、夜になると知らないうちに涙が流れることもあるが、その理由さえも分からない」

 複数の証言によれば、レイプ被害に遭った女性たちは大学を退学させられたり、家名の恥だとして夫から殴打され捨てられたりするという。

 HRWのケネス・ロス(Kenneth Roth)代表は、「北朝鮮では性的暴力は公然と行われ、野放し状態で、広く容認された秘密だ」と述べた。「正義を得られる何らかの手段があると思えば、北朝鮮女性だって『私も(Me Too)』と言うだろう。しかし、彼女たちは金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)独裁体制によって声すら上げられずにいる」 (c)AFP/Jung Hawon