【11月11日 AFP】8月のある土曜日の晩、デューリック・バンブレーク(Deurick van Blerk)さん(26)は、小さなボートに乗り込み沖へ出たまま二度と戻らなかった──失踪当時、彼は南アフリカ・ケープタウン沿岸で違法な漁を行っていた。

 仲間のダイバーや遺族は、バンブレークさんが密漁を取り締まる特殊部隊員によって射殺されたと主張している。当該案件については現在、当局による捜査が行われているが、近年は密漁者と当局者との間で暴力行為がエスカレートしている。密漁者が狙うのは、アワビやイセエビだ。アワビは香港や中国本土をはじめとする東南アジア地域で珍重されており、イセエビは地元市場で取引される。

「デューリックと僕は15歳のときに密漁を始めた」と、いとこのブルースさん(23)は、感情をあらわにAFPの取材に語った。「大抵は一緒に漁をしていた。ただ、あの夜は一緒じゃなかった。別々のボートに乗って、僕はキャンプベイ(Camps Bay)で潜っていた。デューリックはイセエビを採るために、ケープポイント(Cape Point)へ行ったんだ」

 彼らのようなダイバーは、豊漁のときには一晩で数百ドル(数万円)を手にすることができる。それでも、野生動物の取引を監視・調査するNGO「トラフィック(Traffic)」によると、香港の市場で1キロ当たり数千ドル(数十万円)で売られている干しアワビの値段を考えると、それはほんのはした金でしかないという。

 1950年代にはすでに乱獲がアワビの資源量に影響を与え始めていたが、密漁がまん延し、アワビの個体数減少が深刻化したのは1990年代の半ばになってからだ。

 AFPの取材に応じたケープタウン大学(University of Cape Town)の海洋生物学者、ジョージ・ブランチ(George Branch)氏によると、アワビの商業的漁獲が始まって以降、その資源量はかつての4分の1にまで落ち込んでいるという。香港での干しアワビの小売価格については、1キロ当たり300ドル(約3万4000円)から1万ドル(約110万円)程度だと説明した。