【9月26日 AFP】美術史上、最大級の謎がついに解き明かされたようだ。フランスの写実主義の画家ギュスターブ・クールベ(Gustave Courbet)が1866年に制作した「世界の起源(The Origin of the World)」。女性の下腹部を描いたこの作品は19世紀で最もわいせつな絵画ともいわれるが、このほど専門家によってモデルの身元がほぼ確実に特定された。

 研究者たちは長年にわたり、モデルはクールベの愛人だったアイルランド人モデル、ジョアンナ・ヒファーナン(Joanna Hiffernan)だと考えてきた。ヒファーナンはクールベの友人の米国人画家ジェームズ・ホイッスラー(James Whistler)とも恋愛関係にあり、パリでは珍しくない三角関係にあった。

 しかし、ヒファーナン説に対しては疑問も根強くあった。主な理由は、絵に描かれた黒々とした陰毛が、ヒファーナンの燃えるように赤い巻き毛の髪と一致しない点だ。

 そしてこのほど、「三銃士(The Three Musketeers)」などで知られる作家アレクサンドル・デュマ(Alexandre Dumas)の息子と作家ジョルジュ・サンド(George Sand)がやり取りした手紙の中から、パリ・オペラ座バレエ団(Paris Opera Ballet)の元バレリーナ、コンスタンス・クニョー(Constance Queniaux)がモデルだと直接言及する証拠が見つかった。

 作品が描かれた1866年夏当時、クニョーはトルコの外交官ハリル・ベイ(Khalil Bey)ことハリル・シェリフ・パシャ(Halil Sherif Pasha)の愛人だった。そしてパシャこそが、官能コレクション収集の一環として、クールベに「世界の起源」の制作を依頼した人物だった。

 このつながりに気付いたのは仏歴史学者クロード・ショプ(Claude Schopp)氏。自著の資料集めとしてデュマの手紙の写しを調べていた際に発見したという。

■「99%確信」

 ショプ氏は、特に「パリ・オペラ座バレエ団のミス・クニョーの最もデリケートで、最も堂々とした『インタビュー』を描写できる人はいない」と書かれた一節に困惑させられたと言う。手書きの原本を調べてようやく、写しには転記ミスがあり、「インタビュー(interview、アンテルビュー)」は「内部、秘部」を意味する「intérieur(アンテリユール)」の間違いだったことに気付いたという。

 この発見をテーマにした今週発売の新刊の中で、ショプ氏は「いつもは発見は長年取り組んだ後にくるのだが、今回はすぐだった。不当という気さえする」と自嘲気味に書いている。

 フランス国立図書館(French National Library)のシルビー・オーブナ(Sylvie Aubenas)氏は、これまでクニョー説を唱えてきた。ショプ氏から発見を伝えられたオーブナ氏はAFPに対し、「当時のこの証拠のおかげで、クールベのモデルがコンスタンス・クニョーだと99%確信できた」と述べた。

 クニョーはモデルをした当時34歳で、オペラ座バレエ団を退団。有名な高級売春婦マリアンヌ・ドゥトルベ(Marie-Anne Detourbay)とパシャの寵愛(ちょうあい)を争っていた。

 ドゥトゥルベは有名なサロンの主人で、後にロワイヌ(Loynes)伯爵夫人となった。ドゥトゥルベも「世界の起源」のモデル候補の一人に挙げられてきた。

 クールベのこの作品の衝撃は現代になっても薄れず、交流サイト(SNS)最大手の米フェイスブック(Facebook)は2011年まで、この絵をプロフィル写真に使うことを制限していた。(c)AFP/Alain JEAN-ROBERT, Fiachra GIBBONS