【9月24日 AFP】南フランス沿岸の澄んだ地中海の底から、大量の車のタイヤが引き揚げられている。2万5000本に上るタイヤは海洋生物の保護区域をつくる目的で40年近く前に沈めたものだが、生物が寄り付かないばかりか、逆に環境を汚染していることが明らかになったためだ。当時まともではないと受け止められた試みは、実際にまともではなかったという残念な結果に終わった。

「当時は水生生物を回復できると期待したのだが、うまくいかなかった。タイヤ漁礁は生物が盛んに繁殖できる場所ではなかった」。南仏アンティーブ(Antibes)市のエリック・デュプレ(Eric Duplay)副市長はAFPの取材にそう語り、肩を落とした。

 タイヤ漁礁は1980年代、アンティーブからカンヌ(Cannes)までの沿岸リゾートから約500メートルしか離れていない海中に設けられた。漁業を禁止した生物保護区域に廃タイヤを沈め、サンゴなど各種海洋生物が住めるようにしようというアイデアで、当時の地元政府や漁業従事者からも支持された。

 しかし、地元漁業団体の責任者ドニ・ジュノベーズ(Denis Genovese)さんは、地中海の生物の大半はゴムや樹脂、油といった化学物質からつくられた人工物の中に住もうとしなかったと説明する。

 ジュノベーズさんによると、カサゴのように、海底や藻に定着して生活する生物はタイヤ漁礁に近づかなかった。また、ハタ科やタイ科の魚、アナゴなどは周辺を泳いでいたものの、どの生物もタイヤ漁礁にはなじまなかったという。

 そればかりではない。2005年に地元ニース大学(University of Nice)が実施した調査で、重金属などの有害な化学物質がタイヤから周囲の環境に漏れ出していることも判明。海洋生物への悪影響だけでなく、人の健康被害も懸念される事態になっていた。

■藻場に悪影響も 

 当局は、海底に沈められて40年ほどたつタイヤが、細かい粒状に分解し、近くの藻場に危険をもたらすことも懸念した。

 撤去作業は先週から、ダイバーやリフトを搭載した船を動員して進められている。今回の作業に先立って、2015年に2500本のタイヤが引き揚げられ、安全に撤去できることが確認されている。向こう数週間で約1万本のタイヤを引き揚げる予定で、残りの1万2500本は2019年春ごろの撤去を計画している。

 ニース大の海洋科学者、パトリス・フランクール(Patrice Francour)さんは、撤去後は「海底が自然に元の環境に戻るようにさせ、センサーを使って監視を続けていく」と話した。

 フランスでタイヤ漁礁が導入されたのはここだけだが、研究者によれば、米国をはじめ諸外国でも同じ試みがなされ、やはり失敗に終わっているという。

 仏政府は撤去費用のうち100万ユーロ(約1億3000万円)を負担し、仏タイヤメーカーのミシュラン(Michelin)も20万ユーロ(約2600万円)を提供した。(c)AFP/Vincent-Xavier MORVAN