【9月23日 AFP】ナジャ・アルブカイさん(49)の頭のなかは、シリア内戦で死亡したした人や行方不明になった人のことでいっぱいだ。

 美術教師のアルブカイさんは、妻のアビルさんと10代の娘とともにフランスで亡命生活を送っている。部屋の壁には、シリアの刑事施設で一緒だった収容者たちを黒インクで描いた2枚の絵が貼られている。

 その一枚には、目の周りを暗くくぼませ、背中を丸めて手で股間を隠す裸の男たちの列がいくつも描かれている。もう一枚には、乱雑に置かれた、痩せこけた死体を見下ろす男たちの姿が描かれていた。まるで自らの運命を見ているといった様子の男たちだ。

 アルブカイさんはAFPの取材に「施設では生と死の間を行き交う。絶望の時、悪夢のなかにいるようだった」と語った。

 祖国を脱出してから3年が経過したが、政府軍拷問室での体験は、今でもスケッチブックに生々しく描かれ続けている。

 フランス各地で展示した数十枚の作品には、同氏が目の当たりにした恐怖──天井から手首でつるされる人や2枚の板で人の体を二つ折りにする「空飛ぶじゅうたん」と呼ばれる装置など──が、まざまざと描かれている。

 拷問に使用された道具のひとつは「ドイツの椅子」と呼ばれていた。椅子の背中に収容者の体を固定して極限までのけぞらせる目的で使われるのだという。

 哲学者ジャンポール・サルトル(Jean-Paul Sartre)やジャンジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)の著作が並ぶ書棚の前で、アルブカイさんは、「ここでの拷問を糾弾するために、このドイツの椅子を死ぬまで描き続ける」と、鋭い眼差しでその決意を語った。