けが患部の組織細胞を皮膚細胞に、マウス実験で初めて成功
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【9月6日 AFP】けがの患部の組織細胞を、世界で初めて皮膚細胞に変えることに成功したとする研究論文が6日、発表された。10年に及ぶ研究の成果は、重度の熱傷患者や、床擦れなどに悩む高齢者など、多くの人々に明るい希望をもたらす可能性がある。
英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論文によると、研究には「細胞リプログラミング」と呼ばれる技術が関係しているという。これは、遺伝子を細胞に挿入することによって、その細胞を別の細胞に変える技術だ。
主執筆者で、東京大学(University of Tokyo)の栗田昌和(Masakazu Kurita)氏は、AFPの取材に「(患部の)組織細胞から皮膚細胞へのリプログラミングに関する初めての記述」と語った。
同氏は2014年、遺伝子28個を組み合わせ、培養皿で組織細胞を皮膚細胞にリプログラミングすることにはじめて成功した。これが、研究の突破口となった。2015年には、米カリフォルニア州のソーク研究所(Salk Institute for Biological Studies)へと移り、世界各国の専門家らと協力して研究を進めた。
栗田氏の研究チームは、遺伝子の組み合わせを変えながら実験を約2000回繰り返し、細胞の転換に最も効果的な方法を調べた。最終的に4遺伝子の組み合わせにたどり着き、次にマウスの傷患部で実験を行った。
チームはまず、マウスの傷を周囲の皮膚から隔離した。こうすることで、大きな熱傷または傷の中心部の治癒しづらい患部を再現し、周囲の皮膚が再生に関与できない環境を作った。
そして、マウスの傷患部にリプログラミング技術と従来の薬剤治療を併用した結果、約2週間後に直径1センチの皮膚が再生した。
技術の実用可能性については、まだかなりの時間を要すると栗田氏は述べており、あと10年は研究を続ける必要があるかもしれないと慎重な姿勢を示している。
研究では、実験用マウスの新たな皮膚細胞を8か月にわたり観察し、皮膚細胞の損傷が起きなかったことを確認した。だがこれが永続的なものであることを確認するためには、より長期の観察が必要となるという。
また遺伝子を使った細胞の転換には、いかなるプロセスであっても、がん細胞の発生を含む変異リスクが伴う。(c)AFP/Sara HUSSEIN