【8月16日 AFP】「行くぞ、行くぞ、行くぞ!!!」──米軍のC2A輸送機「グレイハウンド(Greyhound)」の乗員の掛け声に、私たちは身構えた。着艦の合図だ。数秒後、容赦ない圧力で私は自分の席に押し付けられた。空母に降り立ったのは初めてだった。これから米海軍の大型原子力空母「ジョージ・H・W・ブッシュ(USS George H.W. Bush)」の取材が始まる。この空母にフランス軍のパイロットが短期間、招待されている機会を生かし、もしかしたら起こるかもしれない文化の衝突を取材したいと考えたのだ。結果は、期待を裏切らなかった。

 初めに私たちの目に入って来たのは、フランス軍のジェット戦闘機ラファール(Rafale)と並んで止まっていた米軍のF18戦闘機だった。エンジンはうなるように音を立て、発艦に備えていた。四方はひたすら大西洋の青い海が広がっている。私たちがいた地点は米バージニア州沖だった。フランス軍唯一の空母「シャルル・ド・ゴール(Charles de Gaulle)」が2017年から大規模な改修に入っているために、フランス軍の戦闘機とパイロットは米海軍が保有する空母11隻のうちの1隻に乗艦し、訓練を実施している。この演習は、「チェサピーク作戦(Operation Chesapeake)」と名付けられている。その名は1781年の「チェサピーク湾の海戦」に由来する。米独立戦争時に、同盟国だったフランスの艦隊が英国艦隊に打撃を与え、流れを変えた重要な戦いだ。

米空母ジョージ・H・W・ブッシュの船上で、ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の写真を背に報道陣に説明をするスティーブン・カール・エバンス海軍少将(撮影日不明)。(c)AFP / Eric Baradat

 この訓練の取材に、私は特別な関心を寄せていた。米国防総省の元番記者であり、今はフランス軍の取材をしている私にとって、互いに独特のスタイルや文化を持つこの二つの同盟国が、水上に浮かぶ都市さながらの狭い空間でどのように共生しながらやっていくのか興味があった。

 私たちは温かく、おおらかな歓迎を受けた。「誰に話しかけてもいいし、写真もほぼ好きなように撮ってもらっていい」。米海軍の広報担当者は私たちに説明した。これがまず、1番目のカルチャーショック。フランス軍を取材する記者は、かなり厳格な規則に従わなければいけない。部隊名を明かすことはできず、パイロットの顔はぼかさなければならず、兵士が記者に何を話しているか、広報担当者が見張っている。

 ただし米空母では、自由に取材を始める前に「トリビュートルーム」を訪問するのが習わしだった。各空母にはその名の由来となっている人物に敬意を表する部屋が設けられている。今回の場合は、1989~93年まで第41代米大統領を務めたジョージ・H・W・ブッシュ(George H.W. Bush)氏だ。

 ブッシュ氏自身、第2次世界大戦中に海軍パイロットとして太平洋で戦った。弱冠18歳、米海軍最年少パイロットだった。1944年には撃墜されたが、自軍の潜水艦に救助された。このとき乗組員が撮影した救助の様子を捉えた写真は、公式写真や家族写真ともに、この部屋の壁を飾るコレクションとなっている。

 甲板に戻ると、人が動き回り、騒然としていた。ジェット戦闘機が離艦するところだった。カタパルト(艦載機射出機)を担当する黄色のジャケットを着た乗員の1人が、甲板上で機体を誘導していた。F18戦闘機を空に送り出すその姿は踊っているようで、まるで映画「トップガン(Top Gun)」の1シーンのようだった。その乗員、ナイジェル氏は後で「楽しみながらやりたいと思って、少し自分なりのスタイルを取り入れているんだ」と言いながら大声で笑い、実演してくれた。

 そこで、フランスのカタパルト担当班の長であるブルーノ氏をちらっと見ると、無表情に「我々はもう少し厳格だ」と言いつつ、フランス軍が戦闘機を送り出す仕種をやはり実演してくれた。それは米軍の方法とほとんど同じで、グルーブ感だけが足りなかった。2番目のカルチャーショックだった。

大西洋を航行する米空母ジョージ・H・W・ブッシュの甲板で、フランス海軍の偵察機「ホークアイ」を誘導して離艦させるカタパルト担当のナイジェル氏(右、2018年5月11日撮影)。(c)AFP / Eric Baradat
大西洋を航行する米空母ジョージ・H・W・ブッシュの甲板で、米海軍のF18戦闘機「ホーネット」を誘導して離艦させるカタパルト担当のナイジェル氏(左、2018年5月11日撮影)。(c)AFP / Eric Baradat

 北大西洋条約機構(NATO)に加盟する二つの同盟国の海軍は互いをよく知っていて、長年、数えきれないほどの共同作戦に参加してきた。フランス軍によると、米空母で行う訓練のペースは、通常よりも多少ハードだという。

「演習の強度とスピードが異なる」と、フランス軍のパイロットは語った。

「米軍とフランス軍の大きな違いは、規模だ。シャルル・ド・ゴールでは全戦闘機を発進させ、そして回収する。我々はこれを両方同時にできる。我々はより速いペースで運用している」と、スティーブン・トーマス(Steven Thomas)副司令官は言った。トーマス氏の正式な肩書は「エアボス(Air Boss、空母航空部門のトップ)」で、そう書かれたTシャツを着ていた。だが、空母の最高権力者である司令官と区別するため小さく「ミニボス」とも書かれていた。3番目のカルチャーショック。フランス人は自分の肩書をからかうような自虐的なTシャツは決して着ない。

大西洋を航行する米空母ジョージ・H・W・ブッシュの管制塔で働く「エアボス」(2018年5月11日撮影)。(c)AFP / Eric Baradat

 海上訓練の強度が違う理由の一つは、空母の大きさだ。シャルル・ド・ゴールは全長260メートルで、飛行機が離着艦を同時に行うことは物理的に不可能となっている。一方、ジョージ・H・W・ブッシュの全長は333メートル(広報冊子風に言うと、「エンパイアステートビルの高さとほぼ同じ」)で、カタパルトが4基ある。

 数字を比較すると、二つの軍の違いが簡単に見えてくる。米国の2018年の軍事費は約7000億ドル(約77兆円)。一方フランスの軍事費は、向こう8年間の合計で、その半分以下だ。

 大きさがすべてではない、とフランス軍がすぐに指摘した。

「空母ブッシュは、我々の空母の2倍の長さがある。より長い分、ある意味、シャルルよりもブッシュの方が着艦しやすい」とフランス海軍参謀長クリストフ・プラズック(Christophe Prazuck)大将はすかさず私に説明した。

米空母ジョージ・H・W・ブッシュの飛行甲板(撮影日不明)。(c)AFP / Eric Baradat

 食堂の夕食メニューはスペアリブ、フライドチキン、ポテトフライ、野菜、アイスクリーム。塩気のあるスナックや甘いスナックの自動販売機もあった。炭酸飲料は無料で、アルコールは見当たらなかった。

「ここの食べ物は脂っこい」。背の高いフランス軍兵士が悲しそうに自分のトレーに目を落とし、ため息をついた。4番目のカルチャーショック。フランスの空母は、フランスの他の各軍部隊と同様、焼きたてのバゲットやクロワッサンも含めて食事の素晴らしさで有名だ。米国の都市にも素晴らしいレストランはあるが、そうした美食の習慣はまだ軍までたどり着いていない。

 寝る時間になっても、艦内の音は鳴りやまなかった。空母の乗員は昼夜を問わず働いている。私の船室はVIPキャビンの一角にあった。VIPキャビンはそれぞれ、ジョージ・H・W・ブッシュ氏が歴任したポストにちなんで名付けられていて、中央情報局(CIA)長官、在中国米国大使、米国大統領といった部屋があった。

 ダークブルーのベッドシーツには、この空母の紋章が付いていた。第2次世界大戦の本や、ブッシュ氏の娘が書いた伝記「My father, My president(私の父、私の大統領)」などが置かれていた(ブッシュ家でこの空母は「パパ空母」と呼ばれているようだ)。

大西洋を航行する米空母ジョージ・H・W・ブッシュの甲板からカタパルトによって飛び立つF18戦闘機「ホーネット」(2018年5月11日撮影)。(c)AFP / Eric Baradat

 午後10時、スピーカーから祈りの言葉が流れてきた。5番目のカルチャーショック。フランス人は、宗教的慣習が公の場から排除された環境で育っている(祝日の大部分はカトリックにまつわるものではあるが)。米国は最初の入植者が、自分たちの宗教を平和に実践できるためにとやって来た国だ。米大統領就任式では、聖書に手を置いて宣誓を行う。公の場で祈りが流れるのは日常の出来事なのだ。

「夕方の祈りは昔からの習慣だ」。翌日、礼拝堂の牧師、ジョン・ローガン(John Logan)氏から説明を受けた。この空母には4人の牧師が乗っている。だが、「私たちはイエスの名を使うことを避けている。誰もが共感できる一般的なメッセージを伝えるようにしている」と語った。

大西洋を航行する米空母ジョージ・H・W・ブッシュの甲板で、米海軍のF18戦闘機「ホーネット」を誘導して離艦させるカタパルト担当官(2018年5月11日撮影)。(c)AFP / Eric Baradat

このコラムは、AFPパリ本社の軍事担当、ダフネ・ブノワ(Daphne Benoit)記者が執筆し、2018年6月19日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。