【6月24日 AFP】米国が不法入国者を厳格に取り締まる「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策を導入して以来2300人余りの子どもたちが親から引き離され、ソーシャルメディアには関連した画像や動画が数多く出回っている。ただ、広く拡散され、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米政権の移民政策への反対世論が国際的に沸騰するきっかけになった2枚の写真は、メキシコ国境で不法入国者の親子が引き離されている事態と直接関係がない場面を撮影したもので、誤解を招きかねなかったことが、AFPの事実確認で明らかになった。

 2枚の写真のうちの一つ、中米ホンジュラスから入国したジャネラ・バレラ(Yanela Varela)ちゃん(2)が慰めようもないほど泣きじゃくっている写真は親子分断の象徴として世界的に認識された。写真はピュリツァ―賞(Pulitzer Prize)受賞歴のあるゲッティイメージズ(Getty Images)のカメラマン、ジョン・ムーア(John Moore)氏が6月12日に米テキサス州マッカレン(McAllen)で撮影したもので、移民支援に当たっている同州の非政府組織「RAICES」が1800万ドル(約20億円)を上回る募金を集めるのに一役買うことになった。

 米誌タイム(Time)は当初ジャネラちゃんが母親から引き離されたと伝えるとともに、泣いているジャネラちゃんとトランプ米大統領の画像を表紙に使用し、トランプ氏がジャネラちゃんを上から見下ろしているような形に配して「米国にようこそ」というキャプションを付けた。

 しかしタイム誌は、「女児は米国境警備隊に引き離されて泣いているのではなかった。母親は女児と再会し、2人は一緒に(施設に)収容された」と訂正する事態に追い込まれた。ホンジュラスの移民保護当局者はAFPに対し、ジャネラちゃんが母親から引き離されていないことを確認した。ジャネラちゃんの父親デニス・バレラ(Denis Varela)氏も米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)に対して、ジャネラちゃんと母親サンドラ・サンチェス(Sandra Sanchez)さん(32)が同じマッカレンの移民センターに収容されていると語り、親子の分断はなかったと明言した。

 表紙は誤解を招くと米ホワイトハウス(White House)などから批判を浴びたことを受け、タイム誌は編集上の判断は誤りではなかったと主張した。

 エドワード・フェルゼンタール(Edward Felsenthal)編集長は米メディアに向けて、「6月12日に撮影された2歳のホンジュラス人女児の写真は、移民問題をめぐる米国内の論議で最も目立ったシンボルになるべくしてなっている」と述べ、「今週撤回されるまで(トランプ)政権の政策によって不法移民は刑事責任を問われて子どもと親が引き離される事態が発生した。当誌の表紙と記事は、このつながりを捉えている」と強調した。

■「おりで泣く子ども」 は抗議行動の一幕

 ソーシャルメディアで拡散したもう一枚の写真は、おりのように見える設備の中で子どもが泣いている写真で、米国内に設けられた子どもの収容施設で撮影されたとしてツイッター(Twitter)で多くの人に共有された。しかし実際には、テキサス州の支援団体「ブラウン・ベレー・デ・セマナウァック(Brown Berets de Cemanahuac)」が米移民政策への抗議活動を行った際、子どもの収容を模して撮影したもので、同団体がフェイスブック(Facebook)に設けているページに6月11日に掲載されていた。

 こうした事実確認を踏まえると拡散した2枚の写真は、かなりの政治的意図をもって撮影された状況の前後関係から切り離して使用されたものであって、親と引き離されたり米国とメキシコの国境に設けられた施設に収容されたりしている不法移民の子どもたちが置かれている実際の状況を示しているものだとみなすことはできない。(c)AFP