【6月13日 AFP】14日に開幕する2018年サッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)。テレビにくぎ付けになって試合に見入るのは、サッカーファンだけではない。空気力学、心理学、人体構造学といった領域を専門とする科学者たちもまた、選手やボールの動きを逐一追い、美しい試合のすべての側面を精査している。

■公式球「テルスター18」

 W杯でほぼ毎回問題となるのはボールだ。W杯の公式球は1970年大会以降、独スポーツ用品大手アディダス(Adidas)が設計している。

 今年の公式球「テルスター18(Telstar 18)」はすでに一部のゴールキーパーから、変化しやすくてつかみにくいと批判されている。だが、科学者たちはこのボールについて、実際は極めて安定していて、2010年南アフリカ大会でさんざんけなされた公式球「ジャブラニ(Jabulani)」よりは確実に上だと言う。

「テルスター18」は、アディダスが初めて担当した1970年メキシコ大会の公式球「テルスター(Telstar)」へのノスタルジックな回帰だ。このときのW杯で初めて、白黒テレビでの放送でボールを識別しやすくするために白い六角形と黒い五角形の革パネルを貼り合わせたボールが採用された。

「テルスター18」について調べるため、研究チームはこのほど、風洞試験と表面測定を行った。その結果、前回2014年ブラジル大会の公式球「ブラズーカ(Brazuca)」と比べると空気抵抗が大きく、時速90キロ以上の衝撃速度で蹴った場合の飛距離はブラズーカよりも8~10%ほど短くなることが分かった。

 実験に参加した米リンチバーグ大学(University of Lynchburg)のエリック・ゴフ(Eric Goff)教授(物理学)は、「遠距離から狙うストライカーにとっては厳しいボールで、非常に強く蹴る必要がある」と説明。一方で「ブラズーカよりもやや到達速度が遅い」のでキーパーにとっては有利になるとした。

 他方で筑波大学(University of Tsukuba)のスポーツ科学研究者、洪性賛(Sungchan Hong)氏は、キックロボットによる実験を通じて、過去のW杯公式球に比べてテルスター18の「飛翔軌道は非常に安定している」ことを確認したという。つまり、フリーキックやコーナーキックなどのセットプレー、あるいは強力なミドルレンジ・シュートを打った際などに効果的だと同氏は述べる。