カラフルでポップなせっけん、仲間と協力のあかしで誇り 「職人」は障害ある23人
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【6月30日 AFPBB News】職人たちが真剣な面持ちで、形や配置を確認しながら手際よく升目の中に色とりどりの「フルーツ」を入れた後、透明の液体を流し込んで固まるのを待つ。菓子工房さながらの光景だが、作っているのはフルーツゼリーではなく、せっけんだ。
イチゴやオレンジ、パイナップルやキウイの形をしたせっけんを型に入れて作った「フルーツキャンディバーソープ」。色鮮やかなフルーツが、みずみずしいまでに再現されている。工房には甘い香りの代わりに、せっけんのさわやかな芳香が漂う。
■自社ブランド製造で注目度アップ
神奈川県小田原市、川沿いの緑豊かな田園に建つ「リンクライン(LinkLine)」の工房。23人の従業員は、知的、身体、精神のいずれかに障害がある。ここでは皆、「メンバー」と呼ばれる。このほかに指導担当の3人が加わり、国産の植物性油脂を用いて企画から梱包まで一貫して社内で手がける。主力商品のせっけんは、ネット通販のほか、全国の有名雑貨店で販売されている。
東京のIT関連会社の特例子会社として、2010年に設立された。以前は、企業からの委託製造(OEM)が中心だったが、2016年に自社ブランド「リィリィ」を打ち出して自分たちでデザインしたせっけんを作るようになってからは、会社や作り手への注目度が高まった。昨年は、主力のフルーツキャンディーバーソープなどの売り上げが好調で、創業以来の目標だった売り上げ1億円を達成。貸し切りバスで日帰り社員旅行にも行った。
■「作り手のことも知ってほしい」
リンクライン代表で、自らせっけんの型を作りメンバーに指導する神原薫(Kaoru Kambara)さん(44)は、「障がい者ががんばっているからという理由ではなく、2回目も買いたくなるものを作っていきたい」と語る。「障がい者を雇用して満足するのではなく、収益を上げ、会社として自立するにはどうしたらいいか」。創業時に考えた神原さんが行き着いたのが、せっけんだった。
「作り手のことをもっと知ってほしい」という思いが募り、自社ブランドが誕生。人気の「キャンディバー」のほか、今やケーキやチョコレート、バラの花や貝殻、口紅の形をした化粧品のシリーズなど種類は広がる。
自社ブランドを展開する上で、OEMをしていた経験が生きた。細かい検分は技術の向上につながり、納期を守ることで達成感やチームワークを身につけていった。手作りせっけんには、模様の配置が同じものはなく、従業員の個性が透けて見える。
■在庫ができて大喜び
精神障害のある鈴木愛美(Manami Suzuki)さん(25)は、入社5年目。20代から50代までの「メンバー」たちを束ねるリーダー的存在だ。それぞれの性格に合わせて指示の伝え方を変えるなど、コミュニケーションに気を配る。一方で、「自分が障害者だということをまだ受け入れられていない」と打ち明ける。
それでも「ここが自分の居場所。仕事に誇りが持てる」と思えるのは、「泣けるほどうれしかった」気持ちを分かち合った経験があるからだという。初めて在庫ができた時、生産力が上がったことが証明され、皆で喜んだという。それまでは自転車操業で、在庫を積み上げる暇もなかった。「頼られているのだから、しっかりしなくちゃ。休日は何をしていいかわからずテンション下がるけど」
■働く姿勢で人の心を動かす
製造現場では、高い集中力と手先の器用さが求められる。イチゴの断面を表現するために白髪ネギ用のナイフで削り取り、茶こし網でたたいてフルーツタルトの表面の質感を表現するなどしてこしらえた模様は、固まる前の液体せっけんの温度を間違えれば、すぐに溶けてしまう。
慎重な温度管理が求められるなど、工程ごとにさまざまな作業があるが、どのメンバーも手慣れた様子。障害の程度によって、得手不得手はあるものの、苦手分野を克服することでやりがいや自信につながっているようだ。
同社には、福祉関係以外の見学者も多く訪れる。「説明がうまくできない時もあるが、働く姿勢や背中で言葉以上のことが伝わる。人の心を動かせるのがみんなの才能」と神原さん。作る人に思いめぐらせながら、せっけんを飾るも良し、使うも良し。今後はどんな新作が生まれるのか楽しみは尽きない。(c)AFPBB News