【5月11日 AFP】およそ10年にわたって、チェン・グオシンさん(54)は中国南部にある「ゴーストタウン」の保存に身をささげてきた──。ここは壊滅的な大地震で命を落とした数万人の人々を悼む巨大な野外の記念碑だ。

 2008年5月12日、四川(Sichuan)省で発生したマグニチュード(M)7.9の「四川大地震」では、死者および行方不明者の数が8万7000人に上った。同省北川(Beichuan)県は、10年前の地震発生以来、まるで時間が止まってしまったかのようだ。ここで公務員として働くチェンさんは、壊れた建物やがれきの保存を担当している。

 四川大地震から10年の節目を迎えるなか、約200人からなるチェンさんのチームは、いまだ約2万人の遺体が埋まったままになっているがれきに日々向き合い続けている。物理的にも、精神的にも厳しいタスクだ。

 時間や天候によって朽ちていく建物やがれきを守るために、ここでは多くの人々が働いている。震災がれきは人の命のはかなさを再認識させるものなのだ。

■ゴーストタウン

 北川県には20人ほどの観光ガイドがいる。彼らは、年間220万人以上訪れる観光客を相手に、不気味なほど静まり返った街路やがれきの合間を案内し、そのたびにあの日のことを思い出すという。

 街路沿いのビルは不自然な角度で傾き、多くは金属製の横架材や突っ張りで支えられている。

 観光客らは、ゆがんでしまったアスファルトの道路を歩き、がれきの山や大破したアパートの前で歩を止めては周囲を見回す。辺りには乳児用のニットのスリッパやしぼんだバスケットボールなどが散乱している。

 安全上の懸念から建物の中に入ることは禁じられている。だが、チェンさんはAFPの取材班を教員寮だったという建物の中に案内してくれた。朽ちた床の上に散らばった何百冊もの本の上には厚いほこりの層ができていた。

 その建物はタイムカプセルのようだった。住んでいた人の多くは地震で亡くなったという。犠牲者らの所有物をめぐっては、大半の遺族が引き取らないことを決めたのだと、チェンさんは話した。

 北川県の東側には3000人が眠る集団墓地がある。犠牲者の遺体が多すぎて、1体ずつきちんと埋葬する時間がなかったのだ。公式統計では、いまだ2万人ががれきの下に埋もれたままになっているとされる。通っていた中学校が崩れ、下敷きになったチェンさんの息子もその中の一人だ。

 多くの人は地滑りやがれきに埋もれて命を落とした。救助当局は遺体を掘り起こすことで病気がまん延することを恐れたという。

 取材中、観光客や遺族が犠牲者を悼み、線香をたいていた。