『森の生活』の聖地ウォールデン湖、汚染と温暖化で悲惨な状態
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【4月6日 AFP】19世紀中ごろ、米作家ヘンリー・デイビッド・ソロー(Henry David Thoreau)は自然とつながるためにウォールデン湖(Walden Pond)のほとりで暮らし、名著『ウォールデン 森の生活(Walden: or Life in the Woods)』で人生の意味について書き記した。
米マサチューセッツ(Massachusetts)州北東部にあるウォールデン湖は歴史的な地で、州の保護地区にもなっている。だが、4日に発表された研究によると、かつて自然のままの姿だった湖は、今や遊泳者や観光客により汚染されている。
米科学誌「プロスワン(PLOS ONE)」に掲載された研究論文の筆頭著者であるポール・スミス大学(Paul Smith's College)の教授、J・カート・ステージャー(J. Curt Stager)氏は「ウォールデン湖の堆積物は、ソローが暮らした時代以降、この象徴的な湖に起こった主な生態系の変化を記録している」と指摘した。「これら堆積物は、将来的に温暖化が進むと、さらに変化が起こることも警告している」
■生態系の根本的変化
研究によると、20世紀の初めに湖のほとりの開発が進み、また人間の排せつ物が湖に捨てられ、植物性プランクトンが増加し、水の透明度が「著しく」低下したという。
1930年代には、毎年夏になると何十万人もの人が湖に泳ぎにやって来た。
1968年、ウォールデン湖の生態系にさらに大きな衝撃を与える出来事が起こった。在来魚を一掃し、代わりにそれまではいなかったニジマスやブラウントラウトなどスポーツフィッシングの対象となる魚を湖に放つため、殺魚剤ロテノンがまかれた。
さらに20世紀の終わりには、世界中の湖のほとりでよく見られる藻の一種ミノヒゲムシが「大量かつ継続的に増加した」。また、地球温暖化によって気温が上がり続けていることも、ウォールデン湖の状態に悪影響を与えている。
ステージャー氏は藻の増加について「どちらかというと、栄養素の増加または栄養カスケード(捕食被食関係による段階的な栄養相互作用)が原因のように思われる」と述べた。つまり、生態系が根本的に変化し、元の状態に戻れない可能性を意味する。
1970年代以降、ウォールデン湖を保護する活動が続けられてきた。湖のほとりの土壌浸食は抑制され、近辺の埋め立て地が閉鎖されたために上空を飛ぶカモメの排せつ物も減少した。
だが、研究者たちは地球温暖化によって「夏の保養のために湖に泳ぎに来る人が増え、また水面温度の上昇により水中の栄養物がさらに増加する可能性がある」と指摘している。(c)AFP