【4月11日 AFP】6月に開幕するサッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)だが、会場の準備は今も遅れていて、地方都市サマラ(Samara)のスタジアムで使用されるピッチは、芝生がいまだにドイツで育てられている状況にある。

 サマラのコスモス・アリーナ(Cosmos Arena)は屋根のデザインが変更された上、2017年12月落成のはずが、それがもう何度も先延ばしになっている。コスモス・アリーナは、W杯というスポーツの祭典をロシアの津々浦々で開催するという、政府の見通しの甘さを示す典型例だ。

 国際サッカー連盟(FIFA)で大会ディレクターを務めるコリン・スミス(Colin Smith)氏は、3月21日の査察で「やらなければならない仕事が山積みだ。もちろん、もっと進んでいるものと思っていた」と話している。

 最終的になんとか帳尻を合わせ、6月17日に行われるコスタリカ対セルビアの初戦までにスタジアムが稼働していることに疑いはない。ただ、キックオフまで3か月を切った中でもピッチの芝が張られていない現状は、州知事の辞任にまでつながった建設ビジネスをめぐるごたごたが背景にある。

■曲がりくねった「宇宙への階段」

 宇宙をテーマにし、空飛ぶ円盤をイメージしたコスモス・アリーナの建設は、実に4年前、地元の名のある建設会社が受注した。大会組織委は、4万5000席のスタジアムに「宇宙への階段」という壮大な二つ名を付け、スタジアムは地面までのびる透明なガラスのドームに覆われ、複雑に張り巡らされた金属の梁(はり)がライトアップされて夜空に映えるとうたった。ロシアの小さな町のものとしてはかつてない規模のプロジェクトで、それでいて費用は全スタジアムに課された予算2億2500万ドル(約240億円)以内に収まるはずだった。

 ところがそこから、市当局の介入で事態は複雑化。スタジアム・デザインに収入源となるショップや不動産用のスペースを詰め込んだ結果、用地は必要な分の約1.4倍に膨れ上がった。そして2016年中旬、費用が最低でも3億ドル(約320億円)に上ることがわかるころには、建設業者がさじを投げていた。幻想的なガラスドームも企画倒れに終わり、代わりに武骨な鋼鉄のものが使われることになった。

 必要な作業が半分も終わっていないことをFIFAは気にし始めたが、総費用の見積もりも、その費用を誰が持つのかもはっきりしない。地元ニュースサイトによれば、変更後のデザインでも費用は3億1500万ドル(約336億円)に達するという。建設計画を練り直し、建築許可の取り直しもしたことで、竣工は昨年12月から今年3月へ、さらには今月末へとずれ込んだ。最初のテストマッチは今月28日に行われる予定だが、これはその日までにピッチが用意できればの話だ。

 ピッチの問題は他のスタジアムでも起こっていて、そのためロシアの農業省は、コスモス・アリーナについては特別にドイツから芝生を購入してもいいという許可を与えた。実はピッチの芝生はすでに用意できているのだが、敷く場所がまだどこにもない。さらにまずいことに、地面の温度を保つために建てた巨大な温室が雪の重さで2月に倒壊し、地面は1か月近く凍りついたままだった。

 FIFAのスミス氏は、パーカ姿で、凍ったスタジアムの外の雪の中に立ちながら、「まだピッチができておらず、もう少し気温が上がるまで待たないと芝生を敷けないのは明らかだ」と話した。近年まれにみる厳しい冬が去り、気温が氷点下をなんとか脱するのは、4月に入ってからになるとみられている。

 大会組織委は、W杯での使用に耐えるかを確認するため、各スタジアムでそれぞれ2試合か3試合のテストを行うことを予定している。ビタリー・ムトコ(Vitaly Mutko)副首相は3月末に「天候に大きく左右されるが、われわれとしては4月28日に最初のテストマッチを行いたいと考えている。現時点では延期は考えていない」と話した。(c)AFP/Dmitry ZAKS