■「過激ファン」とバナナ

 サッカーでは右派のフーリガンやクラブの「過激ファン」が試合で騒動を起こすことがあり、人種差別行為とは切り離せない関係にある。この問題は欧州各国で起きており、特に1970年代から90年代にかけては、イングランドやイタリアなどで深刻なトラブルとなっていた。

 こうした敵対行為は、ここ20年でアフリカや中南米の選手を契約し始めたロシアサッカー界にも波及している。中でも最も深刻なエピソードの一つとして、ブラジルを代表する伝説的選手のロベルト・カルロス(Roberto Carlos)氏が、同国でプレーしていた2011年にバナナを投げつけられ、うんざりした様子でピッチを去るという事件が発生。同氏は当時、「ロシアサッカー界の責任者が、この事態を把握していることを願っている」と話していた。

 欧州サッカーの反人種差別団体(FARE)の報告によると、2016-17シーズンのロシアリーグでは、人種差別行為や極右的な事件が89件に上ったとされている。しかし、元フランス代表としてW杯制覇の経験を持つリリアン・テュラム(Lilian Thuram)氏は、この問題を解決するための具体的な対策は何も立てられておらず、「FIFAをはじめ、RFSや一般社会は、この問題に本気で取り組む意思はあるのか?」と問いかけている。

「こうした行為がW杯で起きた場合、審判は試合を止めるだろうか? そうは思わない。FIFAが試合を止めることがあれば、彼らがどれだけ真剣なのかが分かるだろう」

 現役時代にはスパルタク・モスクワ(Spartak Moscow)やチェルシー(Chelsea)のMFとしてプレーしていたスメルティン氏は、スポーツ界で最も改革を訴える人物の一人として学校訪問を行っているほか、モスクワ大学(Moscow State University)ではサッカー界で人種差別と闘うための講義を行っている。

 同氏は現在、世界規模で同様の活動を普及させていきたいとしており、ロシアの英字紙モスクワ・タイムズ(Moscow Times)に寄せた記事では、「こういった教訓はサッカー界だけのものではなく、あらゆる人々の間で話し合われている。そして私の見解では、サッカーは話し合いの場として最高のプラットフォームだ」と述べている。(c)AFP/Dmitry ZAKS