【4月14日 AFP】マレーシアの熱帯雨林の奥深く、闇夜に2人の男性が高い木の枝に不安定に座っている。煙が出るたいまつを使い、こずえの巣から数千匹ものハチをおびき出そうとしている。蜂蜜を手に入れるためならハチの怒りを買うことも顧みない。

 ハニーハンターと呼ばれる村人たちの一団は毎年、そびえ立つトアランの木に隠された蜜を求めジャングルの奧にまで足を運ぶ。

 20年以上もこのやり方で蜂蜜を採っているというアブドルサマド・アフマド(Abdul Samad Ahmad)さん(60)は、「これは本物だぞ」と言った。「この蜂蜜は栄養たっぷりだ。せきや風邪に効く薬にもなる」

 医学的な効果・効能があるともされるニュージーランド産のマヌカハニーと同様にマレーシアのトアランハニーも高価で、1キログラム当たり約150リンギット(約4000円)という値段が付く。農村で暮らす貧しい人々にとってはかなりの金額だ。

 しかし、この伝統の方法は環境破壊からハチの減少、若者の無関心まで数々の脅威に直面している。

 それでも筋金入りのハンターたちは楽観的だ。彼らにとって、ジャングルのエキゾチックな花からハチたちが集めた甘い蜜を採取するため高さ75メートルの木に登るほど心躍ることはない。

 マレーシア北部のウルムダ(Ulu Muda)森林保護区とその周辺の森林は、アジアの他の地域からやってきた大きなハチたちが熱帯雨林の最上層の上に伸びる木々に巣を作る2月から4月にかけてが蜂蜜採取のシーズンに当たる。

 このほど行った蜂蜜採取では、アブドルサマドさんとその6人の仲間が2隻のボートに分乗して湖を渡り、森の奥にある1本のトアランの木にたどり着いた。昨年その幹に数十センチの間隔で釘付けしてはしご代わりにしていた木の枝を新しい枝に取り換えていく。

 日が暮れると、厚着をした上にさらに厚い上着を着た一団はねじり合わせたつる植物の根に火を付け、煙が出るたいまつにした。

 そうして木に登り、ハチの巣に近づくとたいまつを幹にたたき付ける。大量の火の粉が下に降り注ぎ、メンバーの一人がハチたちに大声で言う。「下りてこい、黒ちゃんたち、下りてこい」

 ハチの群れが火の粉を追って勢いよく出ていく。その隙にハチの巣を切り分けてバケツに入れていく。

 男たちは時間をかけてその木にあった数多くの蜂の巣を回った。夜明けの直前まで作業を続け、43キログラムの蜂蜜を集めた。作業中に何度もハチに刺されたが、この痛さには慣れていると言った。

 グループの一人、ザイニ・アブドルハミド(Zaini Abdul Hamid)さんは、自分も仲間も蜂蜜採取で死人が出たという話は聞いたことがないが、時期や場所が悪ければ体が膨れるまでハチに刺されるだろうと話した。