【3月9日 AFP】元二重スパイのロシア人男性に対する残忍な襲撃事件で再び注目が集まっている英ロンドンのロシア人コミュニティー。表向きは裕福できらびやかだが、そこには暗い影が見え隠れし、これまでも幾度となく陰謀の舞台となってきた。

 英国に亡命した元二重スパイのロシア人男性、セルゲイ・スクリパリ(Sergei Skripal)氏(66)と娘のユリア(Yulia Skripal)さんは4日、自宅のあるイングランド南西部ソールズベリー(Salisbury)で神経剤にさらされ、現在は病院で意識不明となっている。

 ロンドンに集中する英国在住ロシア人の人口は約10万人。これは欧州諸国の首都の中で最も多い。彼らがロンドンに引き付けられる理由は、ロシアで最も人気のある外国語が英語であること、ビジネスがしやすく、また巨万の富を移動しやすいことなどが挙げられる。

「米国は遠いので、ロシアと関わりのある活動を続けるのならば英国にいる方が良い」と語るのは、歴史家のユーリ・フェルシュチンクシ(Yuri Felshtinksy)氏。AFPの取材に応じた同氏は、2006年にロンドンで放射性物質によって毒殺された、元ロシア連邦保安局(FSB)のスパイでロシア政府批判で知られたアレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏の友人だ。「英国は事業を興すのが比較的容易で、またロンドンならば他の街よりも気兼ねなく裕福でいられる。例えばフランスだったら超高級車を走らせるのは少々気まずいだろう」

 無論、ロンドンに住むロシア人すべてが裕福なわけではない。2015年にロシアで放送され、「ロンドングラード(Londongrad)」という流行語を生んだドラマシリーズでは、ロシア人コミュニティの多様性が描写された。

 だが、新興財閥や富豪といった裕福なロシア人は、自分たちの富を誇示することが多い。彼らの生活圏はロンドンの高級住宅街ベルグレイビア(Belgravia)、メイフェア(Mayfair)、ナイツブリッジ(Knightsbridge)などで、食料品を買うのは老舗高級百貨店ハロッズ(Harrods)だ。ファッションモデルや最後のロシア皇帝の子孫らと交流し、恒例の舞踏会や私立学校、ポロといった英国貴族社会の習慣も採り入れている。