【1月12日 AFP】選挙で投票所に足を運ばなかった多数の有権者を、州政府が選挙人名簿から一括除名するのは是か非か──米連邦最高裁判所で10日、オハイオ州の規定をめぐる審理が始まった。共和党が州議会で多数派を占める同州では、2015年だけでも数千人が「有権者名簿を更新し不正を防ぐため」との名目で選挙権を失ったが、左派寄りの有権者が多い貧困層が不当に狙い撃ちされているとの批判がある。

 米国は今年11月に中間選挙を控えている。ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領に対する米国民の信任を問う重要な試金石とみなされており、共和党が議会で過半数を維持できるかどうかも選挙結果にかかっている。

 こうした中、選挙権の制限はとりわけ白熱した議題となっている。選挙不正疑惑の根絶を掲げる共和党と、左派寄りのマイノリティー(社会的少数者)や貧困層の投票権が抑圧されていると主張する民主党は複数の局面で対立しており、米最高裁の判断が一連の争議の行方に大きな影響を及ぼす可能性がある。

 オハイオ州の現行規定では、選挙権を2年間行使しなかった有権者に対し、選挙管理委員会から現住所の確認を求める通知書が届く。この通知への対応を忘れた人や、4年連続で投票に行かなかった人は、有権者名簿から除外される。しかし「2年続けて投票しなかったとしても、転居の根拠にはならない」と地元市民団体の代表者は指摘する。

 オハイオ州以外にも、ジョージア、モンタナ、オクラホマ、オレゴン、ペンシルベニア、ウェストバージニアの6州が同様の除名制度を立案している。一方、カリフォルニア州やニューヨーク州、首都ワシントン(コロンビア特別区)など12州は、この慣行を禁止するよう連邦最高裁に求めている。

 トランプ政権はオハイオ州を支持しており、バラク・オバマ(Barack Obama)前大統領政権とは正反対の立場を取っている。

■候補者に不満で棄権したら選挙権喪失

 オハイオ州を訴えた原告の一人で米海軍退役軍人のラリー・ハーモン(Larry Harmon)さんは2015年11月、自分が有権者名簿から除外されているのを知って愕然(がくぜん)とした。転居は16年間していなかった。選挙は4年連続で棄権していたが、それは単純に、どの候補者にも満足できなかったからだ。

 原告の市民団体は、選挙権は民主主義の根幹だと主張。「恣意(しい)的で不合理な要件を満たさなかったことを理由に有権者名簿から除名するのは、基本的人権に対する直接攻撃であり、民主主義の解体へと一歩前進するも同然だ」と訴えている。

 オハイオ州の規定では、祖国から遠く離れた戦地から帰還した退役軍人や、経済的に困窮している人々、長時間労働者などが特に影響を受けている。最高裁の判断は、オハイオ州のみならず複数の州で数百万人の有権者が投票できるかどうかを左右することになる。(c)AFP