「見せ物の何が悪い」障害超えたエンターテイナーに拍手喝さい 東京
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【12月13日 AFPBB News】義足のダンサー、手話漫才コンビ、自閉症ミュージシャン、小人プロレスラー、ドラァグクイーン──。個性豊かなパフォーマーが一堂に会する一夜限りの公演「月夜のからくりハウス~平成まぜこぜ一座~」が10日、東京都港区で行われた。障害の有無や程度を超えて繰り広げられる芸のモットーは、「見られる」ではなく「魅せる」、「笑われる」ではなく「笑わせる」。日頃は個々に活動するパフォーマーたちが、1年以上かけて準備した舞台に、満員の観客席からは惜しみない拍手が送られた。
企画したのは、誰も排除しない「まぜこぜの社会」の実現を目指し、マイノリティーと呼ばれる人たちの創作活動を支援しようと2012年に設立された社団法人「ゲット・イン・タッチ(Get in touch)」。女優の東ちづる(Chizuru Azuma)さんが代表を務め、これまでにもアート展や性的少数者(LGBTQ)を取材したドキュメンタリー映画の制作などを行ってきた。
■現代版「見世物小屋」
公演には、脊髄性筋萎縮症で寝たきり生活を送るお笑い芸人あそどっぐ(Asodog)さんや、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピック閉会式に出演した車いすダンサーのかんばらけんた(Kenta Kanbara)さんら27組が出演し、コントや歌、舞踊、ラップ、プロレス、操り人形劇など多彩な演目を約2時間半にわたって披露した。
テーマは、現代版「見世物小屋」。なかには、出演者たちが一斉に登壇して「人を笑わせたい」「自分を表現したい」と口々に訴え、「異質な人にレッテルを貼って隠す」社会に「ノー」をつきつける演出も。「演者の自己主張と自由表現の場として見世物小屋が復活することは、おもしろいこと」と全盲の落語家、桂福点(Fukuten Katsura)さん。
「見せ物」「さらし者」といった批判を招きかねない言葉をあえて使うのも、過剰な配慮によって活躍の場を失った出演者たちの切実な思いの表れだ。「まずは、見てもらって知ってほしい」と語るのは、「小人プロレス」の再興を目指すレスラーのプリティ太田(Pretty Ohta)さん(39)。1960年代に米国から日本に伝わった低身長の人々によるプロレスは、「かつてはテレビ放映もされたが、視聴者からの苦情やメディア側の自主規制で放映されなくなった」という。太田さんとタッグを組むミスターブッタマン(Mr.Buttaman)さんも今の「風前のともしび」である状況を変えたいと願う。
■自分だからこそできる表現
様々なパフォーマンスを一挙上演する舞台に、観客の反応も未知数だったが、扉を開いたようだ。「ここにいたるまでの一人一人のストーリーをもっと知りたくなった」と、カップルで訪れた千葉県在住の30代男性。パートナーの男性も「見ていいものか最初はドキドキしたが、さすが皆プロなだけに、エンタメとして素直におもしろかった」とうなずく。小人プロレスを目的にやって来たという埼玉県の塾講師、猫蔵さん(Nekozo)は、「出演者がそれぞれ『俺にしかできない』ことをやっている。ひとつひとつ心に刺さってきた」と、興奮さめやらぬ様子だ。
舞台監督を務め、自身も座長として出演した東さんは、「この公演は目的ではなく手段。パフォーマーが日々鍛錬していることを紹介することで、テレビや映画などに出るチャンスが増えてほしい」と期待を込める。
出演者たちの表現活動を、障害にかかわらず、エンターテインメントの一つとして表舞台にあげるにはどうすればいいのか。どんな社会なら可能なのか──。ボランティアを含め総勢140人で作り上げた公演は、観客を巻き込みながら挑戦の輪を広げようとしている。(c)AFPBB News