【AFP記者コラム】天国を汚した油─「小規模な」流出事故が奪った青い海
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【11月14日 AFP】ここで起きた油流出は、世界のトップニュースにならなかった。油流出事故の規模としては小さすぎたからだ。だが、直撃されたのは私の故郷だった。大切な思い出の中の水晶のように澄み切った海が汚染された。われわれの環境がいかにもろいものかを示した過酷な例だ。
ギリシャのサラミス(Salamis)島は、首都アテネの喧騒(けんそう)を逃れて日帰り旅行をするのにちょうど良い近さにある。私は16歳の夏をここで過ごし、透明な海で毎日泳いだ。どれほど透き通っていたか、今でも覚えている。
あれ以来、サラミス島に戻ったのは今年9月が初めてだった。油輸送船「アギア・ゾニ2号(Agia Zoni II)」から2200トンの油が海に流出したときだ。通常の大規模な油流出事故と比べれば小さい。米メキシコ湾(Gulf of Mexico)沖で起きた英エネルギー大手BPの石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン(Deepwater Horizon)」の事故では、56万~58万5000トンの油が流出した。フランス北西の沿岸で起きたアモコ・カディス(Amoco Cadiz)号の事故では、約22万トンが流出した。けれど、サラミスの事故も大変な打撃だった。
事故から2日たった9月12日、私はどうなっているのか見当もつかないまま、ボートでサラミス島へ向かった。最初に行ったセリニア(Selinia)ビーチ。真っ黒な海と、強烈な石油の臭いにショックを受けた。
私はうろたえた。目の前には海が広がっている。だが、それは長年撮り続けてきた青い海じゃない。青い海はギリシャを象徴するものの一つだ。ぞっとするような光景だった。それでも海は美しかったが、私が慣れ親しんできた穏やかで落ち着いた海ではなかった。
いったい油は浜辺に何をしたのか、それを撮影するために私は数日をかけて何度か島に戻った。美しい朝日の下で醜悪な油をとらえるために夜明けにも行った。
景観がどれほど変わってしまったかを示すために、30秒、あるいは1分といった長時間露光で撮影した。そうすることで、環境に吸収されてしまった油と、まだ表面を覆っている油の両方を写すことができた。
油流出でサラミス島の住民は甚大な被害を受けた。島はアテネやその近郊の人々に人気の観光地だ。それが今や油臭が漂い、海面も岸もねばねばした油の塊で覆われている。漁師はもう漁ができない。当局は迅速に油除去を行うと即座に発表し、島の浜辺に作業チームを派遣した。だが私は、この「小規模な」油流出が長期間にわたって影響を及ぼすのではないかと恐れている。少なくとも私は引きずるだろう。
このコラムは、ギリシャ・アテネを拠点に活動するフリーランス・フォトグラファー、アンゲロス・ゾルジーニス(Angelos Tzortzinis)が執筆し、2017年10月26日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。