【10月29日 AFP】スイス製腕時計の精密機器を作る仕事をしていたエドゥアール・クーンツ(Edouard Kunz)さん(70)は時間厳守が大事なことはもちろん承知しているが、人里離れたモロッコ西部を自身が走らせる列車、オリエンタル・デザート・エクスプレス(Oriental Desert Express)が一度も時間通りに運行したことがないことは認めた。

 映画「007」シリーズの2015年の作品『007 スペクター(SPECTRE)』で有名となったこの列車は、モロッコ北東部の街ウジュダ(Oujda)から旧鉱山都市のブアルファ(Bouarfa)間の砂漠の350キロを観光客を乗せて走る。

 クーンツさんは「1回の旅に8時間から12時間はかかる。それ以上かかるときだってある」として、頻繁に起こる遅延は砂嵐のせいだと話した。最高時速50キロで走る列車は、時には線路が砂に埋もれ、完全に停止することもある。

 クーンツさんが運転席に座ることになった原動力は、列車への情熱だ。クーンツさんは10年以上前、廃線となった線路に観光列車を走らせたいとモロッコの国営鉄道局を説得した。

 アルジェリアとの国境付近を走る線路が敷設されたのは今から100年近く前、モロッコがフランスの保護領だった時代だ。地中海(Mediterranean Sea)とアフリカ内陸をつなぐ「地中海ニジェール鉄道(Mediterranean-Niger railway)」という野心的な計画の一環だった。

 しかし計画はすぐに頓挫。ブアルファの鉱山や工場は閉鎖され、まるで月世界を思わせるこの砂漠地域が脚光を浴びたのは、クーンツさんに再発見されて『007 スペクター』のロケ地になってからだ。(c)AFP/Frederique Prabonnaud