【10月12日 AFP】それはまるでアブグレイブ(Abu Ghraib)刑務所での悪名高き虐待行為を捉えた写真のようだが、違いは、それらがもっと「ひどい」ということだ──。イラク・モスル(Mosul)の一般市民は、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から同市を奪還した自国の軍兵士らによるレイプや拷問、そして殺人といった非人道的な行為に直面している。

 クルド系イラク人の写真家アリ・アルカディ(Ali Arkady)氏が撮影したこれらの衝撃的な写真について、英BBCのベテラン戦争特派員のジェレミー・ボーウェン(Jeremy Bowen)氏は「私がこれまでの人生で見てきた中で最も邪悪で、気分が悪くなるものだ」と語る。

「Kissing Death」と題されたこれらの写真は、アルカディ氏が昨年、イラク特殊部隊のメンバーの中に混じって撮影したもので、戦争特派員に送られるフランスの最高賞「バイユー戦争報道特派員賞(Bayeux-Calvados)」をこのほど受賞した。

 賞の審査委員長を務めたボーウェン氏は、写真は「非常に強烈」なイメージである以上に「邪悪そのもの」と語った。

 だが、審査員らを動揺させたのはその写真に捉えられたイメージだけではなかった。アルカディ氏は、拷問が行われていた最中に兵士たちから詰め寄られ、自らも容疑者2人を殴ったことを明らかにしたのだ。そして、自分自身の身を守るため仕方がなかったとはいえ、その行為に胸を張ることはできないと述べた。

 しかし他の写真家らは、その取材プロセスが行き過ぎたものではなかったのかと首を傾げる。

 ボーウェン氏は「これらの写真を撮影したアルカディ氏の行為は、彼が犯したいくつかの間違いを相殺するほど強いものだ」と主張する。だが、その考えに素直に同調できない人も中にはいるようだ。

 匿名を条件にAFPの取材に応じた別の審査員メンバーは、「衝撃的」な写真への授賞で倫理的な問題が持ち上がり困惑していると話す。

「ストーリーがはっきりしていない。多くの人は、これらを世に出した彼の行動を勇敢なものと考えている…しかし、このような写真に賞を与えることで、我々は間違ったメッセージを発信しているのではないだろうか」