【AFP記者コラム】踊れないから撮る! ダンス下手カメラマンが目指す最高のショット
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【9月11日 AFP】ダンス撮影では、とにかくたくさんシャッターを切る。するとバレエでも、モダンダンスでも、社交ダンスでも、毎回必ずこれはという完璧なショットに出会える。一挙手一投足の繊細な動きとか、とにかく何もかもが完璧なショットが絶対にある。
だからこそダンス撮影が楽しくて仕方ないのだと思う。パーフェクトショットを捉えるのは良い気分だ。
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だがその理由は、実はもう一つある。私は世界最悪のダンサーだ。幼い頃、母は私たちきょうだいを社交ダンスの教室に入れたが、目も当てられない結果だった。私はダンスは好きだったが、どうしても踊れなかったのだ。
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高校時代、女の子と知り合うためにはダンスが必須だったが、駄目だった。だからそういう人々──世界最高のダンサーたちを目にすると、そんなことができる人をうらやましく思う。踊りたいのに踊れないから、私は2番手を狙おう。つまり、写真で最高を目指そうとしている。
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ダンス撮影への興味が芽生えたのは何年も前、公立の小学校で踊る子どもたちを撮った時だった。テレビのドキュメンタリーで、米ニューヨーク(New York)の市立小学校の児童たちに社交ダンスを教える授業を取り上げていた。選ばれた5校の子どもたちがペアを組み、タンゴやらフォックストロットやら、さまざまなダンスを習っていた。私が「はまった」のはその時だった。
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その後ニューヨーク・タイムズ(New York Times)のダンス専門カメラマンに聞いてみると、ジョイスシアター(Joyce Theater)に行くといいと教えてくれた。以来、出演者をチェックしては時々足を運ぶようになった。
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ニューヨークシティーにいる通信社カメラマンにとって日々の生活の糧といえば、政治、経済、国連(UN)だ。この三つから離れようと思ったら、ちょっと違ったことを見つける必要がある。私も自分が関心を持てるものをいくつか見つけてきた。一つはウエストミンスター・ケネル・クラブ・ドッグショー(Westminster Kennel Club Dog Show)。もう一つがダンスだ。
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興味を持ち始めてからは、ニューヨークのダンス関連の話題を探しては、面白そうなものをのぞいてみるようにした。
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例えば、バレエの名門「スクール・オブ・アメリカン・バレエ(School of American Ballet)」の6~7歳対象の入学審査。
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アイスダンス。
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モダンダンス。
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社交ダンス。
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ポールダンス。
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アカデミー賞(Academy Awards)授賞式で踊るロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)も。
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しまいには、ダンスに何らかの形で関わるものすべてに赴くようになった。そして大抵の場合は、それが何であれ美しい写真に恵まれた。しかもAFPの普段の配信とは一線を画すものになった。
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私が気付いたのは、どんな種類のダンスもすべてはバレエに通じているということだ。モダンダンスでもタンゴでも、完璧なポーズを決めるには皆、同じバレエのトレーニングを積んできているように思える。万事バレエが軸になっているようだ。
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私が一番好きなのも、バレエの撮影だ。目にするあらゆるダンスのうちで、バレエがナンバーワンだと私は思う。それはもうひたすら美しいから。
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どんなバレエだとか、どのバレエ団だとかは関係ない。見れば一様に美しい。男性も、女性も。まさに美の境地だ。
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足のアップ。
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背中を弓なりに反らせたり、指先を伸ばしたりする様子。
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ちょっとしたシンプルな動作。
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そして演目があり、衣装がある。見入らずにはいられない。他の誰にもできないことをやってくれる。本当に、どうしたらあんなふうに動けるのだろう?
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長年撮っていると、笑える瞬間も目にする。スクール・オブ・アメリカン・バレエでの、子どもたちの入学審査。1人の小さな男の子の行儀が少々悪かった。その場に居た校長が静かにするよう諭したが、その子はおしゃべりをやめなかった。そこで校長が「ダンサーになって、くるみ割り人形(The Nutcracker)に出たいんじゃないの?」と聞くと、男の子は臆する様子もなく「ううん、ママにやらされてるんだ」と答えた。これには周囲の誰もがほほ笑まずにはいられなかった。
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一つ告白しなければいけないことがある。私は自分には無理だった夢を、もしかしたら自分の子どもが受け継いでくれるかもしれないと考えて、娘が4歳のときにバレエ教室へ入れたことがある。だが、ダンスに関する彼女の遺伝子は私と同じなのだろう。私の社交ダンス並みにひどかった。わが娘にはセンスのかけらもなかった。
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取材を重ねているうちに、大勢のダンサーと知り合いにもなった。これは役得だった。彼らはダンサーとしての技量もさることながら、人間としても興味深い人物ばかりだ。皆、同じ道をたどり、同じ体の故障を抱えている。ダンス、特にバレエは体を酷使する。
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相当長いキャリアを誇る人もいれば、早々に燃え尽きてしまう人もいる。
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言うまでもなく、ニューヨークシティーの暮らしは素晴らしい。あらゆる世界一がここから巣立って行く。最高のミュージシャン、最高のダンサー、あらゆるものの最高傑作がここにある。各分野のトップに立つ人々を撮影する仕事は常に素晴らしい。
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妙な話だが、私は単にバレエ鑑賞に行くのは好きではない。どうしてもカメラが要る。一度撮影してしまったら、座って見てはいられない。目の前のその瞬間を捉えたくてうずうずしてくる。私がずっとやりたいと憧れてきたことなのだ。でもそれがかなわないから、私はきょうも2番手を目指す……。
(c)AFP/Timothy A. Clary
このコラムは、AFPニューヨーク支局のティモシー・A・クラリー(Timothy A. Clary)カメラマンが、パリ(Paris)本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同執筆し、2017年8月16日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。
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