【7月10日 AFP】イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が主張する「カリフ制国家」のイラク最大都市モスル(Mosul)での敗北は、国家樹立を目指す同組織の試みにおいて大打撃となった。しかし、この陥落はISにとって「致命的」なものではない。

 モスルは、ISにとって「カリフ制国家」運営のための主要な拠点の一つで、力の象徴でもあった。3年前に支配を開始した当時の人口は約200万人だった。

 元米特殊部隊大佐でアナリストのデービッド・ウィッティー(David Witty)氏は、モスルでの敗北は「ISの威信に関わる重大な打撃」と指摘する。

 モスルの陥落によって、カリフ制国家の連結した支配地域は縮小し、孤立状態にある場所が増えることとなったからだ。しかし、アナリストらは、最終的な勝利を宣言するには時期尚早だと警鐘を鳴らす。

 戦争学研究所(Institute for the Study of War)のイラク情勢アナリスト、パトリック・マーティン(Patrick Martin)氏は、「モスル奪還をISの終焉(えん)と捉えるべきではない」とし、ISはシリアを筆頭に「重要な都市部を今も掌握している」ことを改めて指摘した。

■情勢不安は数年続く

 マーティン氏は、「治安部隊がISに対する優勢を長期にわたり維持できるよう手段を講じなければ、ISは再び勢力を取り戻し、都市部の掌握も可能だろう」と話す。

 ISは、残った支配地域の維持を試みつつ、今後はゲリラ攻撃や爆弾攻撃により多くの戦力を集め、方向転換の動きを早めるものとみられている。このことについてウィッティー氏は、「イラクでは今後、ISは主要地域をあからさまに掌握しようとするのではなく、テロ攻撃や反政府的な活動に軸足を置くことが想定される」と説明した。

 他方でマーティン氏は、武力衝突の敗北後にISが起こす大規模な襲撃には、一定のパターンが存在すると指摘する。

 昨年イラクの首都バグダッド(Baghdad)で320人以上の死者を出した過去最悪の爆弾攻撃は、ISが象徴的な拠点としていたファルージャ(Fallujah)を失った後に発生した。また、イラク軍による近年最大の軍事作戦となったモスルへの攻撃開始から数日後には、クルド人支配地域キルクーク(Kirkuk)に対して大規模な奇襲攻撃を仕掛けている。

 カリフ制国家樹立を今も目指しているISは、同組織を排除したとするイラク政府の主張を否定するために、こうした攻撃を繰り返し仕掛けてくることが考えられる。

 前出のウィッティー氏は「こうした状況は簡単に予想できる。イラクは今後数年間、不安定な治安情勢に苦しめられることになるだろう」と警鐘を鳴らしている。(c)AFP/Jean-Marc Mojon