【6月15日 AFP】パンクスの若者の多くがそうであるように、キューバ人ロック演奏家のゲルソン・ゴベア(Gerson Govea)さん(42)も若い頃、自分のことを「はみ出し者」だと感じていた。だが、彼ほど自滅的な役割を引き受けた人間はほとんどいないだろう。ゴベアさんは自分からわざと、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染したのだ。

 共産主義を掲げるキューバでは、この島国では珍しいヒッピーやパンクスのことを「フリキス」と呼ぶ。英語の「フリークス」(変わり者)をスペイン語風にした言葉だ。そのフリキスの中でもゴベアさんは、最もハードコアな脱落者組の最後の一人だと思われている。

 フリキスの反逆は、ラム酒や自由恋愛、キューバで禁止されているロック音楽にとどまらなかった。彼らは比較的安全で居心地の良い国立のAIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)診療所に入るために自分たちからすすんでHIVに感染したのだ。「(感染した)自身の血液をくれる友達を見つけてね」「それを自分で抜き取って自分で注射したんだ」と長髪、イヤリング、タトゥー姿のゴベアさんは言う。

 それは17年前のことだ。以来、友人たちがAIDSで亡くなるのを見てきた。妻(44)も同じくAIDSのせいで両脚を失った。ゴベアさん自身はまだ立てるが、弱くなった体を抱えて中年期にさしかかっている。