【5月25日 AFP】30代になってから文字を読むことを学んだインド人女性らを対象とした調査で、人の脳が自らを再編成して変容させる驚くべき能力を備えていることが明らかになった。研究論文が24日、発表された。

 研究チームは、文字を読むことを処理する脳の部位について調べるため、非識字率約39%のインドで女性らを対象に調査を行った。

 研究開始時、女性らの大半は母語のヒンディー語の単語を読めなかった。だが6か月に及ぶ訓練の後、女性らの識字能力は小学1年生相当のレベルにまで達した。

 米科学誌「サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)」に掲載された論文の主執筆者で、独マックスプランク心理言語学研究所(Max Planck Institute for Psycholinguistics)のファルク・ヒュッティヒ(Falk Huettig)氏は「この知識の成長は目覚ましい」とコメント。「新しく言語を習得するのはかなり難しいが、その一方で、文字を読むことははるかに習得しやすいようだ。成人の脳が驚くほど柔軟であることが分かる」と述べた。

 研究では、変容が生じた主な部位が、具体的に大脳皮質として知られ、新たな課題に素早く順応できる脳の外側部分でなかったことも分かった。

 脳の再編成が起きていたのは、脳の外側部分ではなく深部領域、特に脳幹と視床だった。視床は、くるみ大の構造体で、知覚と運動に関する情報を中継する。

 研究チームはまた、影響を受ける部位に伝わる信号が増えるほど、女性らの読字力が向上することも確認した。

 論文の共同執筆者で、独マックスプランク認知脳科学研究所(Max Planck Institute for Solar System Research)科学研究員のミハエル・シャイダ(Michael Skeide)氏は「これらの脳システムは、学習者の読字力が向上するにつれて、ますます多くの微調整をシステム内の情報伝達に加えている」と説明する。

 同氏は「読者が経験を積むほど、文章を読み解く効率が高くなる理由は、これで説明できるかもしれない」とも付け加えた。

 今回の研究成果は、失読症(ディスレクシア)の治療に示唆を与える可能性がある。一部の研究者らは、視床の機能不全を失読症の原因として挙げている。

 シャイダ氏は「読字の訓練をほんの数か月施しただけで、視床を根本的に変えることが可能であることが、今回の研究で明らかになった。今後、この仮説を精査する必要がある」と指摘した。(c)AFP