【AFP記者コラム】地球の中心に向かう旅、ベネズエラ違法金鉱の採掘者たち
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【4月24日 AFP】足元には底の見えない黒い深い穴が開いている。私たちはその闇の中を下って行くことにしたが、明らかに緊張していた。私とビデオジャーナリストのヘスース・オラルテ(Jesus Olarte)、カメラマンのフアン・バレト(Juan Barreto)の3人は一歩ずつ、その地の底へ入っていった。これは私たちが何日間も待ち望んでいたことだ。下を見ないようにゆっくりと進んでいった。ガイドのヘッドランプだけが、気味の悪い前方の闇を照らしている。私たちはついにベネズエラに無数にある違法な金鉱の一つに入った。暴力と刑事免責、恐怖が支配する世界だ。
私たちはここにカーニバルシーズンの最中にやって来た。ベネズエラの目まぐるしいニュースサイクルが一息ついて、ずっと取材したかったネタに時間がさける時期だ。選んだのは、この国最大で、鉱山資源が最も豊かな南東部ボリバル(Bolivar)州。多くの未認可の金鉱の支配権をめぐり、マフィアが血なまぐさい抗争を繰り広げている地域だ。ここでは採掘者が銃弾だらけの死体で発見されるのは珍しくない。昨年は、ここからそう遠くない場所で28人が殺害された。10か月前には、いま私たちが訪れている金鉱を仕切っていたボスが射殺された。報道によれば、ギャングたちに金鉱ビジネスの権利を渡すのを拒んだために殺されたらしい。
私たちはプエルトオルダス(Puerto Ordaz)の空港から人けのない道を3時間運転して、エルカヤオ(El Callao)の町に到着した。エルカヤオはカーニバルで有名な町で、大勢の人が押し寄せていた。滞在したホテルの外では、カリプソを踊る人たちの行列がずっと続いていた。その耳に残る音楽は、19世紀のゴールドラッシュ期にここに渡って来たアンティル人の祖先から受け継がれたものだ。男性たちが街中を押し回す大きなスピーカーから響く鼓動は毎晩、夜明けまで続いた。
私たちはぼろぼろのタクシーで街中を見て回った。運転手らは恐ろしい話を惜しみなく教えてくれた。この地域では、人々の生活のあらゆる面を支配しているギャングについて話さない人はいないようだ。採掘者から鉱山のオーナー、店員、運び人、その間に入る人たち──ここら辺では誰もが、「ワクチン」と呼ばれるカネを巻き上げられている。暴力は日常茶飯事だ。
■闇の世界を知る
私たちは違法採掘の闇の世界を知りたかった。だが、そこを支配しているマフィアの許可がないと立ち入ることはできない──というより、すべきでない。何か糸口を見つけるために、まずは首都カラカス(Caracas)で1週間、大変な努力をして、情報を得たりコネを作ったりした。加えて、少しの運もあった。
到着した次の日の朝、私たちはマラリア・センターに向かった。ここではマラリアの流行が1年以上続いているため、センターでは毎日、検査を受ける採掘者が長い列を成しているからだ。並んでいた何人かにインタビューした。その中の一人、アルヘニスさんが、一帯で最も暴力が横行している金鉱の一つ、ナクパイ(Nacupay)に私たちが行けるよう取り計らってくれることになった。
アルヘニスさんはマラリア検査で感染していないと分かると、すぐにその金鉱へ戻った。それから数時間後、彼から電話が掛かってきて、私たちのために許可を取ってくれたとのこと。誰から取ったのかは分からなかったし、私たちもそれについて尋ねはしなかった。私たちはタクシーに飛び乗り、エルカヤオへと急いだ。そこに、アルヘニスさんと彼の採掘仲間2人がバンで迎えに来ていた。2人のうち1人はまだ10代だった。緊張を和らげようとして(何しろ彼らについて何も知らなかったのだから)、車内では冗談を言った。数キロ行った所でバンを路肩に止め、残りの道は歩いて進んだ。
よく晴れた青い空の下、男性と女性が数人ずつ、川床から石を拾い上げていた。急ごしらえの小屋で休んでいる人たちもいた。小屋と言っても、棒を4本立てた上に黒いシートをかぶせただけのものだ。木からつるされたハンモックは、破れた汚い蚊帳で覆われていた。
歩いて回ると、地面に大きな穴が見えた。露天掘りの金鉱だ。中をのぞくと、少女が顔を上げて、フアンのカメラに向かってほほ笑んだ。
夕方にホテルへ戻った私たちは、気分は良かったが満足してはいなかった。もっと取材したい、地下に入りたいと思った。
その後数日間は、カーニバルの取材をしながら、別の金鉱を訪れる許可を取ろうとした。そしてついに、協力者の一人が、採掘者のリーダー格の人物を紹介してくれた。彼が、マフィアの支配下にない小規模な金鉱がいくつかある場所、ララモナ(La Ramona)へ案内してくれるという。
その村の入り口には軍の検問所があった。1年近く前、採掘者のリーダーの一人が殺害されたのを機に、政府が設置した検問所だ。マフィアとの協力を拒んだために殺されたらしい。
私たちは質素な木造の小屋を訪れた。採掘者が選鉱場から運んできた鉱物を、男性たちが休みなく研磨していた。骨の折れる仕事だ。彼らの稼ぎは、金1グラム当たり9万ボリバル(約4600円)。たいした額ではないように思えるかもしれない。だが破滅的な経済危機に見舞われているこの国では、ここで1週間働けば、普通の仕事の月給よりはるかに多くを稼ぐことができる。
数時間後、私たちはバイクに乗った兵士2人に守られて選鉱場を後にした。踊りとカリプソとラム酒であふれるエルカヤオ中心部に戻ったが、もっと何かが必要だと感じていた。
数日後、私たちは早朝に起きて、エルカヤオまで最後のタクシーに乗った。白いピックアップトラックが待っていた。先日の選鉱場行きを手伝ってくれた協力者が、また別の人物を紹介してくれた。彼は私たちのスーツケースもすべてトラックに乗せて、ラクレブラ(La Culebra)の金鉱まで運転してくれるという。ラクレブラとはスペイン語でヘビの意。鉱脈が岩の中を蛇行しているためにそう名付けられた。帰国便に乗り遅れないようプエルトオルダスの空港へ向かうまでに数時間しか残されていなかった。そして、その最後の数時間、私たちはついに地下に入ることができた。
地下30メートル。かすかにガスのにおいがした。暑かったが、息苦しくはなかった。若い採掘者が岩の中の金脈を見せてくれた。
石でも落ちてきて、土ぼこりを立てない限り、無音の世界だ。私たちを案内してくれた採掘者は18歳だった。彼は8年も前から、この仕事をしていた。「たぶん死ぬまでやると思う」と、彼は言った。
この金鉱の中が危険なのは間違いない。常に落盤の脅威がある。だが危険なのは外の世界も同じだ。ここで労苦をしている採掘者たちにとって、それは冒す価値のあるリスク。地球の中心へ向かい、死に直面することになったとしても。(c)AFP/Maria Isabel Sanchez
このコラムはAFPベネズエラ・カラカス支局のマリア・イザベル・サンチェス(Maria Isabel Sanchez)記者が執筆、パリ(Paris)本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者が翻訳し、2017年4月21日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。