【5月3日 AFP】埼玉県所沢市にある「畑中(HATANAKA)」は、食品サンプルを製造販売する中小企業だ。ここでは、切削工具や絵筆、エアブラシ、乾燥器といった一般に広く使われている道具を用いて、本物そっくりの食品サンプルやそれを使ったアクセサリーが作られている。

 これまで食品サンプルには、主な材料としてろうが用いられてきたが、最近ではより長持ちする樹脂などが利用されている。ただ、製作のプロセスそのものは、約100年前に日本初の食品サンプルが登場して以来あまり変わっていないという。

 食品サンプルは、1920年代前半、医療用の病理模型を作っていた職人らが食品模型の製作を依頼されたのが始まりとされている。

 畑中の畑中紀人(Norihito Hatanaka)社長は、3Dプリンターなどの新しい技術について、食品サンプル業界を脅かすものとは考えていない。美しさや「おいしそう」といった感覚を表現するこの仕事では、「人が手を使い、考えて、より自然さを出す」ことが求められるためだ。

 食品サンプル職人の三島さん(79)は、60年にわたってこれらの商品を作り続けている大ベテランだ。数えたことがないため正確な数字は分からないというが、これまでに手がけた食品サンプルの数は数万に上るとしている。

 三島さんは、ローストビーフのサンプルを手にしながら、最も難しいのは着色作業だとAFPの取材に説明。すしのような「生のもの」を作るのが一番難しく、逆に焼き魚の色合いは容易に再現できると話した。

 ここでは、ふわふわのケーキからジューシーなハンバーガーまで、どんな食べ物でもシリコンモールド(型)を使えば再現することができる。ハンバーガーを例に食品サンプルの作り方を説明すると、バンズ、肉、トマト、チーズといった各パーツをそれぞれ用意し、最後に各パーツを組み合わせて完成となる。

 食品サンプルは、決して安くはない。中には、数万円するものもある。手軽に手を出せる金額ではないとの理由から、中にはレンタルする飲食店もあるという。