『ホワイト・ヘルメット』のオスカー受賞、中東の地に喜び
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【2月28日 AFP】トルコ時間で午前6時過ぎ。徹夜で第89回アカデミー賞(Academy Awards)の中継を見ながら、うとうとしていたハレド・ハティブ(Khaled al-Khatib)氏(21)といとこのファディ・ハラビ(Fadi Al Halabi)氏(21)に、米カリフォルニア(California)州ハリウッド(Hollywood)から電話が入った。
アカデミー賞の短編ドキュメンタリー賞にノミネートされていた映画『ホワイト・ヘルメット-シリアの民間防衛隊(The White Helmets)』の制作に関わった2人への電話は、この映画で描かれたシリアの市民ボランティア救助隊「ホワイト・ヘルメット」の同僚からだった。
撮影の大半を担当したハティブ氏は、「『早く起きろ、私たちの映画がオスカーを取った!』と大声を出し、私はファディを起こした」とその瞬間を振り返った。ハティブ氏は、授賞式に合わせて米国へと渡航するために必要な査証(ビザ)まで取得していたが、パスポートが無効であるとして飛行機への搭乗を拒まれた。
「私たちがこの映画を撮り始めたときは、オスカーやその他のどんな賞も頭になかった。最大の目的は、市民の苦しみと、命がけでがれきの中から人々を救出しているホワイト・ヘルメットのメンバーたちの姿を世界に伝えることだった」と、ハティブ氏は言う。そして「シリア市民に対し毎日のように行われている空爆を止めるために、この映画を見る人たち…特に政府関係者や指導者たちからの介入を願う」と続けた。
カメラマンとしてこの映画に携わり、シリア北部アレッポ(Aleppo)の街で2年近く撮影を行ったハラビ氏は、「市民ボランティアとしてホワイト・ヘルメットに参加している建築業者や鍛冶工、露天商といった普通の人々を撮影した」と現場での作業について説明した。
『ホワイト・ヘルメット』はオーランド・ヴォン・アインシーデル(Orlando von Einsiedel)監督がメガホンを取り、動画配信大手の米ネットフリックス(Netflix)が制作した。ネットフリックスのリード・ヘイスティングス(Reed Hastings)最高経営責任者(CEO)は、同作品のアカデミー賞受賞を受け「興奮している」と喜びのコメントを発表した。
シリア軍に爆撃された建物に閉じ込められた人々──その多くは子供たちだ──を救出する衝撃的な映像を通じて、ホワイト・ヘルメットの名もなき英雄たちのストーリーは世界中で視聴された。
約3300人のボランティアによって構成されているホワイト・ヘルメットは、反政府勢力の支配地域にある120施設をベースに活動をしている。彼らのモットーは「1人の命を救うこと、それは全人類を救うこと」。これはイスラム教聖典コーランの一節だ。
内戦勃発から2年が経過した2013年に創設されて以降、これまでにホワイト・ヘルメットによって助けられた人は8万2000人。活動中に亡くなった隊員数は162人に上る。
ホワイト・ヘルメットの活動には、英国、オランダ、ドイツ、日本、米国などが資金援助をしている。寄付を調整しているオランダの非営利団体(NPO)「メイデイ・レスキュー(Mayday Rescue)」のディレクター、ジェームズ・レメジュラー(James Le Mesurier)氏によると、こうした政府からの寄付金は昨年5000万ドル(約56億円)を記録し、過去最高となった
また個人からの寄付は2013年以降、1000万ドル(約11億円)近くに上っていると、同氏はトルコのイスタンブール(Istanbul)で語った。1個あたり145ドル(約1万6000円)するという救助隊の白いヘルメットを購入するためにも重要な財源だ。(c)AFP/Ezzedine SAID