ゲノム編集技術による家畜改良、米専門家らの期待と警鐘
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【2月27日 AFP】人間のDNAを改変することも可能なために倫理的な懸念が高まっているゲノム編集技術が、米国で家畜の改良手段として検討されていると専門家らが指摘している。
ゲノム編集は、別の種の遺伝子を導入するのではなく既存のDNAに改変を加えるもので、遺伝子組み換え作物(GMO)に使われる技術とは異なる。しかし、科学者や消費者団体らは、特に環境や生態系に徐々に広がっていく影響について、ゲノム編集の潜在的なリスクを明らかにするだけの十分な根拠がないと主張している。
「ゲノム編集はバイオテクノロジーにおける最も先端的で有望な技術の一つだ」と、カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)で動物遺伝子学とバイオテクノロジーを専門とするアリソン・バン・エネナーム(Alison Van Eenennaam)氏は、米国科学振興協会(AAAS)の年次会合で語った。
人工授精、胚移植、遺伝子選択の技術は近年、家畜育種の目覚ましい改善につながっている。
例えば、牛乳の生産の効率化を目的とした畜牛の選抜育種によって、米国の畜牛の数は1944年の2560万頭から今日では900万頭に減少したが、牛乳の生産量は1.6倍に増加した。これにより「牛乳コップ1杯当たりの温室効果ガス排出量は、1940年代の3分の1になった」とエネナーム氏は言う。
同氏は角のない畜牛を生ませるためのゲノム編集技術を開発しようとしている。畜牛は通常、角を持って生まれるが、他の畜牛や世話をする人間を傷つけないよう、若いうちに痛みを伴う角の除去施術を受ける。だが中にはアンガス牛など、角の成長を妨げる変異遺伝子を元来持っている種がいる。ゲノム編集技術ではホルスタイン牛の普通の同一遺伝子を、アンガス牛の変異遺伝子のように改変することができる。
また、ニワトリについてはゲノム編集技術を使って、めんどりに成長する卵だけを産むようにしたり、鳥インフルエンザに耐性を持たせたりすることも可能だ。
しかし、米生物多様性センター(CBD)の植物病理学専門家ダグ・グリアンシャーマン(Doug Gurian-Sherman)氏は、危険を伴う応用もあると警鐘を鳴らす。
例えば、昆虫や穀物の遺伝子を殺虫剤や除草剤に耐性を持つように改変する研究は、自然界に突然変異をもたらし、わずか数年のうちに動植物の全体数を様変わりさせかねない。食物連鎖を不安定化させ、他の種の侵入を許す危険性がある。
米農務省(US Department of Agriculture)の諮問員会は昨年11月、たとえ化学肥料を使用せずに栽培されたものでも、ゲノム編集された作物は有機食品の基準から除外することを、全会一致で推奨した。
同省はさらに今年1月、意図的にゲノム編集が行われている動物はすべて、販売開始前の新薬と同様、安全性の検査を必須化するとした。「ゲノム編集を経て生産された食品と動物に対する規制状況がどうなるかは、まだ不明だ」とエネナーム氏は述べた。(c)AFP/Jean-Louis SANTINI