【2月20日 AFP】シリアの首都ダマスカス(Damascus)にある定員超過気味の老人ホームの自室で、ナズ・アシティさん(85)は独り、外国で暮らす娘たちの写真を見ている。目の先にあるのは、もう何年も会っていないわが子たちの姿だ。

 シリアでは年老いた家族を老人ホームに入れることなど、かつてはほとんど考えられなかった。しかし約6年に及ぶ内戦と避難生活により、今や多くの家族には選択の余地が残されていない。内戦によって、若者は命を奪われたり外国への避難を余儀なくされたりする中、年老いた親たちは過密さを増す一方の老人ホームに送られている。

 ダマスカス最大級の老人ホーム「幸福の家(Dar al-Saada)」には、アシティさんを含む140人の高齢者が入居している。アシティさんは「私がここに来たのは家が壊され、子どもたちがそれぞれ別の国に避難したから」だと語る。

 アシティさん一家は、反体制派が掌握するダマスカス東郊の町ドゥマ(Douma)に土地を持ち、裕福な生活を送っていた。3人の娘は現在、それぞれヨルダン、ドイツ、イラク北部クルド人自治区に暮らしている。しかし、アシティさんだけは2012年にドゥマが政府軍に包囲された際に避難を余儀なくされた後、ダマスカスに住んでいる。

 アシティさんは毎日、日記を書いたり読んだりしながら、子どもたちからの電話を待っている。電気が通っているときはいつも部屋にある小さなテレビをつけて、ドゥマや子どもたちが暮らしている国に関する良いニュースが流れはしないかと心待ちにしている。

「私たちはドゥマの家では誇りを持って暮らしていた。この施設のサービスは素晴らしくて、部屋も暖かいけれど、今、孤独なことはみっともないと感じる」とアシティさんは言う。「まさか子どもたちの写真を眺めながら悲しい気持ちで余生を送るなんて思いもしなかった」