【1月25日 AFP】不治の病に侵された2人の息子と孫の苦しみをこの手で止めることを許してほしい──バングラデシュに暮らす貧しい父親の悲痛な訴えがきっかけとなり、この国ではほぼ話題に上ることのない「安楽死」が論争の的となっている。

「もう何年も看病してきた。バングラデシュだけでなくインドの病院にも連れて行った。治療費を工面するために営んでいた店も売り、無一文になってしまった」と、バングラデシュ西部の田舎で果物の露天商として働くトファザル・ホサインさんは言う。

「回復の見込みはなく、苦しみだけが残された彼らの運命をどうすればいいのか、地元政府に決めてもらいたい。私にはもう耐えられない」と話すホサインさん。地元の政府に対して、息子と孫の看病の支援か「薬で死なせることを許してほしい」と嘆願書で訴えた。

 多くの人が貧困ライン以下の生活を送るバングラデシュでは、病院で治療を受けられる人は限られている。無料の医療サービスを提供してくれるクリニックもほとんどない。

 バングラデシュで不治の病に侵されている人は推定60万人とされるが、緩和ケアを行う施設は国内に1つしかなく、末期患者向けのホスピスは皆無だ。

 そのため、遺伝性の疾患「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」を患うホサインさんの息子2人(24歳と13歳)と孫(8歳)に残された選択肢はほとんどない。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは筋力が次第に衰える病気で、有効な治療法はなく、30歳を超えて生きられる患者は少ない。

 ベッドに寝たきりで動くことができない息子たちは病状を自覚している。ホサインさんによると、孫はまだ自分でトイレに行くことができるが、その症状は悪化しているという。

「(安楽死の許可を求める)嘆願書について息子たちに話したが、彼らは真剣には受け止めなかった」と、ホサインさんは言う。「おそらく状況の深刻さが分かっていないのだろう」

 長男のモハマドさん(24)は、テレビを見たり父親と話したりしながら毎日を過ごしている。「父には心配し過ぎないでほしいと言っている」とAFPに語った。モハマドさんに嘆願書について質問しようとしたが、子どもたちを傷つけるからとの理由でホサインさんから止められた。