【1月10日 AFP】しなやかで軽く、生物分解が可能だが、鋼鉄以上の強度を持つ合成の「クモの糸」を作ることに成功したとの研究論文が9日、発表された。クモの糸は、自然界で最も強じんな物質の一つとされる。

 長年にわたる進化の過程で洗練されたクモの糸の直径は人毛の約30分の1。だが、その強度は防弾チョッキの作製に用いられる合成繊維の「ケブラー(Kevlar)」よりも高い。

 本質的にはタンパク分子が鎖状に長くつながったものであるクモの糸について科学者らは長年、その特異的な性質の再現に取り組んできた。

 クモは糸を紡ぐ際に細い管を通してタンパク溶液を分泌するが、その管の中で酸性度が変化し、圧力が上昇することで、タンパク分子同士が結合して鎖が形成される。

 しかし、クモをめぐっては、その飼育の難しさが知られており、作る糸は少量で共食いをする傾向もある。

 スウェーデンの研究チームは今回の研究で、大腸菌で生成されるタンパク質と、クモが糸を作る際のpH値の変化を再現する「紡績装置」を用いて、クモの妙技をまねることに成功したと発表した。

 論文の共同執筆者で、スウェーデン農業科学大学(Swedish University of Agricultural Sciences)のヤン・ヨハンソン(Jan Johansson)氏は、AFPの取材に「これで、刺激の強い化学物質を使わずに人工のクモ糸を紡ぐことが世界で初めて可能になった」「細菌で生成される多量のタンパク質を用いれば、大腸菌の培養液1リットルから1000メートル分の生体模倣繊維を紡ぐことができる」と述べた。

 この合成クモ糸は生体適合性があるため、再生医療で有用となる可能性もあると研究チームは指摘。ヨハンソン氏によると、脊髄の修復や、損傷した心臓を修復するための幹細胞の培養での用途が考えられるという。

 また今回の発明は、繊維産業で有用性を発揮する可能性もある。例えば、従来より軽くて強い身体防具の製作などだ。

 論文は、英科学誌「ネイチャー・ケミカルバイオロジー(Nature Chemical Biology)」に発表された。(c)AFP