【1月16日 AFP】長崎県平戸市生月町に住むコメ農家の谷本雅嗣(Masatsugu Tanimoto)さん(60)は自身をキリスト教徒だとは思っていない。教会に行くこともほぼない。ただ、谷本さんら町の人々は折に触れて祈りの言葉を唱える。

 質素な着物と草履姿の谷本さんらは、自分たちの先祖に思いをはせながら、ポルトガル語、ラテン語、日本語が混ざった「オラショ」と呼ばれる祈りの歌を唱え、素早く十字を切った。谷本さんらの先祖は、17世紀に迫害を受けた「隠れキリシタン」だ。

 米アカデミー賞(Academy Awards)受賞歴のあるマーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督による新作『沈黙-サイレンス-(Silence)』は、隠れキリシタンを題材にした遠藤周作(Shusaku Endo)氏の1966年の小説を映画化したものだ。

 他の数人とオラショを唱え終えた谷本さんはAFPの取材に、この作品が自分たちの先祖の話をきちんと伝えているのであれば見てみたいと思うと話した。

■ルーツはキリスト教、さまざまな要素が融合

 谷本さんらは、生月町の博物館「島の館」に集まってオラショを唱える。

 オラショのルーツはキリスト教だ。しかし谷本さんは、多言語からなるこの祈りの言葉について、神やキリスト教の聖書に出てくる人物をたたえるためのものではないと説明する。

「マリア」の名前も何度か出てくるが、これは聖母マリアへの祈りではない。特定の神聖な対象があるわけではなく、どちらかと言えば、自分たちの先祖が対象なのだという。

 キリスト教徒が全人口の1%にも満たない現在の日本だが、隠れキリシタンとのつながりは4世紀以上も前にさかのぼる。

 1549年にイエズス(Jesuit)会の宣教師フランシスコ・ザビエル(Francis Xavier)が日本に初めてキリスト教を伝えて以来、数多くの日本人がキリスト教を信仰した。だが17世紀になると、その影響力の高まりを恐れた時の権力者によってその活動が禁じられた。

 禁教令が出されて以降、信者らは迫害を受けた。踏み絵を強要される者や棄教を拒んではりつけや火刑に処される者もいた。そして、多くは自身の信仰を隠し通すか、仏教や神道を信仰しているふりをして、隠れキリシタンとなった。