北朝鮮が目指す「科学技術先進国」と現実
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【1月3日 AFP】軍事の影響が色濃く浸透している北朝鮮社会では、 元素の周期表を覚えるときでさえ「銃」が使われている。「学生たちは楽しんでいる」と言いながら、指導助手はトイガンを手に取り、3メートルほど先のスクリーンに映し出された元素周期表へ向けた。「Po」と書かれている枠を撃つと「ポロニウム」について、その発見から用途までさまざまな説明が出てくる。
この「射撃周期表」は、北朝鮮の首都平壌(Pyongyang)を流れる川の小島に立つ、原子の形態を模した巨大な複合施設「科学技術センター(Science and Technology Center)」で導入されている多くの補助教材の一つだ。
北朝鮮の疲弊した経済から吸い上げた乏しい資金とリソースによって今年オープンした同センターには、最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長の直接の命令の下で、モデル都市・平壌に建設されているその他の巨大プロジェクトと共通の特徴が見られる。
センター建設には軍兵士らの労働力が当てられ、わずか10か月余りの期間で完成した。ただ、外観は素晴らしいが、内部は不気味なほど閑散としている。
施設の利用者は1日数千人とされる。だが12月初旬の土曜午後、3000席以上あるコンピューター設置の学習ステーションのうち、使用されていたのは20~30人分のみ。施設スタッフもそのうちの何台かを使用していた。
威信をかけたその他のプロジェクト同様、このセンターも意思の象徴以外の何ものでもない。今年5月、36年ぶりに行われた朝鮮労働党大会での基調演説をはじめ、金委員長は、演説や声明の中で「豊かで力強い祖国」を築く取り組みの中心に、科学とテクノロジーを置くことを繰り返し述べている。
国力の要素は、あくまでも国防に集中しており、その科学技術に基づく軍備はサイバー攻撃から核抑止システムまでに及ぶ。北朝鮮の原子物理学者やミサイル開発の研究者らは、国家の英雄として扱われ、国の指導部からは個人的に優遇される。平壌の高層タワーマンションの住居など、家族ともどもさまざまな恩恵を受ける。